「んん、よく寝た……のか?」

 目を覚まして周りを見渡すとそこは以前も入院したギルドの医務室だった。
 そして例によって俺の手足は鎖で拘束されていた。

「ぷに……」

 そんな俺にぷにが慰めの声を掛けてくれた。
 信頼って言うのは取り返さないと思った。

「んで、何日寝てたんだ?」
「ぷに」
「一日、一日!?」

 一瞬納得しかけたが、計算がおかしい、絶対におかしい。
 トラベルゲートで帰ってきて、医務室に来るまではいい。

 問題は俺の回復具合だ。全身串刺しに加えてのゼロ距離爆発、それなのに僕の体はピンピンしています。

「骨が折れてるんじゃないかと、いや折れてたと思ったんだが……」
「ぷに」

 ぷにも同意見のようで、不思議そうに俺の事を見ている。

「人体の神秘ってやつか、今ならこの鎖も引き千切れそうだぜ――――とうっ!」

 思いっきり両腕を胸元に引いてみました。

「ぷに!?」
「…………」

 そうすると、手首の枷だけが残って鎖部分は金属音を立てながら地面に落ちて行きました。

 僕は思わず、自分の手首と落ちて行った鎖の方向とで視線を行ったり来たりさせました。
 とてもビックリしました。たぶんこれはゆめだとそうおもいました。

「なんか頭がおかしくなっちまってるな。よしクールになろう」

 これはアレだ。慣性だ。慣性の法則を用いれば容易に説明できる。
 動くものは動き続け、止まっているものは止まり続けようとする。

「物理ってすげえな」
「ぷに! ぷに!」
「落ち着け! 今のは何かの間違いだ。足で試してみればわかる」

 同様にベッドの柵に括りつけられている鎖。
 俺は蹴りあげるように足を上へと振り上げた。

「ぷに!!」
「ぼくはとってもおどろきましたが、ぷにのほうがおどろいていました」

 さっきと同じようにジャラジャラと音を立てて視界の外に消えていく鎖。
 そして自由の身になって落ち着いた俺はある一点に気付いた。

「おう、手袋をしたまんまだったか、なるほどなるほど。ハッハッハ!」
「ぷににににに!」

 俺とぷには互いに笑っているが、顔は完全に笑っていなかった。

 なんだろう、あの悪魔と戦った事によりダークなパワーがアップのか?

「手袋パージします」
「ぷに!」

 ぷにの方に両手を差し出して、手袋を取ってもらおうとする。

「ぷに……ぷにに!」
「遊んでんじゃねえよ!」

 ぷには俺の手袋を口に持って、後ろに引っ張っているが全然取れない。

「いつの間にパントマイムなんか覚えたんだよお前……」
「ぷ、ぷに? ぷに?」

 俺が自分で手袋を取っていると、ぷには変な声を上げながら俺の方を見ていた。

「ぷにー?」

 ぷにが首を傾げるように、体を傾けていると突然扉がノックされた。

「起きてんの? 入るわよー」
「ちょ、一分待ってください!」

 木製の扉の外側からクーテリアさんの声が聞こえ、俺は慌てて起き上った。

「ど、どうするよぷに。この状況?」
「ぷ、ぷに……」

 鎖を壊した事には何も言われないだろうが、病人が暴れてるなとか怒られるかもしれない。
 流れで、止めなかったぷにも怒られる可能性大だ。

「そうだ、俺がちょっとずつ元気アピールをする。んで、少しづづこの現状に気付かせてあげよう」
「ぷ、ぷに!」

 心得たといった様子で、ぷには足元の鎖を拾い集めたので俺は左右の鎖をなるべく音をたてないように拾い上げた。

 そして、布団を被って鎖の切れた部分を布団の内側に隠して、あたかもまだ繋がっているかのようにして見事に偽装工作は完成した。

「どうぞー!」

 俺がそう声を張り上げると、クーデリアさんはいそいそと扉を開けて入ってきた。

「ちょっとあんまり大きな声出すんじゃないわよ、体に響くわよ」
「――――」

 ク、クーデリアさんが俺の心配を……?
 横目で見るとぷには口を開けて驚いていた。

「で、でも、もうだいぶ元気かな〜って思うんですけど」

 僕はもう回復してますアピールをしてみた。

「何バカなこと言ってんのよ、これ医者の診断書よ」

 そう言ってクーデリアさんは懐から一枚の紙を取り出して読み上げた。

「肋骨がほぼ全壊、それに全身に裂傷と火傷よ。全治半年の重病なんだから精々大人しくしてなさい」

 おいちょっとその診断書書いた奴連れてこい、俺のこのかつてない元気さを見せてやる。

「半年が一日で治ったりとか、あると思いますか?」
「こんな時までふざけなくていいわよ。仕事残ってるからもう行くけど、くれぐれも大人しくしてるのよ」
「は、はい……」

 なんだろうこの罪悪感、たぶん俺は悪くないのに。
 ここは勇気を振り絞って、俺は元気です! とか言って立ち上がってみるか?

「おれ――ゲフッ、ゲフッ」
「ぷに!?」

 上半身を起こしたところで気管に唾が入った。
 これにより重病人っぽさに加速がかかった。

「ああもう、何やってんのよ。ほら寝てなさいって」
「俺は元気でええす!」

 近づいてくるクーデリアさんに向けて布団を跳ね飛ばし、俺はベッドから寝たままの態勢で飛び跳ねて床に着地した。

「退院しますから! 俺は元気ですから!」
「ぷにに!」

 クーデリアさんが布団を被ってもがいている間に、俺とぷには扉を開け放ちギルドの外まで最短コースで駆け抜けた。

「はあはあ、優しくされる事があんなにも恐ろしいとはな……」
「ぷに〜」
「時と場合によっては嬉しい、嬉しいんだが、今のはダメだ」

 勘違いによる優しさ、それは相手の心にわだかまりを生むのです。

「この調子だとアトリエに行ったら、トトリちゃんにも驚かれそうだな」
「ぷに」

 良い具合におばけ扱いされそうだな。

「トトリちゃんもおばけは怖いだろ。俺も怖い」
「ぷに?」

 ぷにが俺の頭の上に乗って、意外そうな声を上げた。

「子供のころに読んだ白くて口が赤いおばけの絵本のせいだ。アレのせいでおばけは受け付けないんだよ俺」
「ぷに……」
「ん、なんだよ?」

 この年でおばけが怖い俺に対してのあてつけか、ぷにが可哀想な人にでもかけるような声を浴びせてきた。

「とりあえず、腹減ったしイクセルさんの所に行くか」
「ぷに!」

 俺はサンライズ食堂へと歩みを進めて行った。


…………
……


 食堂の前に着き、扉を開けると奥のテーブルに見たような顔があった。

「お、久々だな! 席はあの子と一緒でいいのか?」
「んと、そうですね。注文はいつもので」

 イクセルさんが顔を向けている方向にいるのはミミちゃんでした。
 無駄に心配とかされないと嬉しいです。

 俺がミミちゃんのテーブルに近づいてくと、ミミちゃんが俺の方を控えめに見ながら言いづらそうに言った。

「体はもう平気なの? 動き回れる怪我じゃなかったと思うんだけど」
「……錬金術ってすごいんだぜ」

 正直説明のしようがないのでそう言っておいた。
 自分でもどうしてああなったかがいまいちわかってない。

「そう、えっと……」

 ミミちゃんが珍しく言い淀んで、それから顔を伏せて顔を赤くしながら小さな声で言った。

「あ……あの時は助かったわ……」
「もっと大きな声でアゲイン、トライアゲイン」

 俺は自分でもわかるほどにやにやしながら、席に座りそう言った。
 そんな俺をミミちゃんは睨んできた。

 フフッ、照れ隠しなのはわかってるんだぜ?

「人が折角礼を言ってやってるのにあんたときたら……」

 ミミちゃんの頬がヒクヒクと痙攣している。

「礼だったの? いや、よく聞こえなくてさあ」

 だがそんなの関係ねえ。九割のツンの外にある一割のデレ、ここは限界ギリギリまでいってやる!
 そのままニヤニヤして見ていると、ミミちゃんは突然席から立ち上がった。

「この借りはそのうち返すから、忘れんじゃないわよ!」

 そう言い放ち、店の客の視線を集めながらミミちゃんは会計を済ませて店の外へと出て行った。

「基本的にいい子だよな」
「ぷにに」

 それを再確認していると、イクセルさんがこっちに料理を持って来た。

「なんだ、喧嘩か? どうせお前がしょうもない事言ったんだろ」

 イクセルさんが呆れながらそう言ってきたので、俺はこう応じた。

「ちょっと俺は彼女の素顔に触れたかっただけなんですよ、でもちょっと力が入りすぎちゃって」
「わかった。お前が悪い」

 そう断じてイクセルさんは料理を置いて戻って行ってしまった。

「……たぶんあと一、二年はデレが訪れないだろうな」
「ぷに」

 そんな事を考えながら、俺は昼食を済ませた。



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