よく分からぬうちに退院してから数日経って、十二月も中頃になったある日。
 俺とぷには後輩君を連れてアーランド近場の森まで討伐のお仕事に来ていた。

「せんぱーい、終わったぞー!」
「あいよ、こっちも今終わらせた!」

 茂みの向こうから後輩君の声が聞こえてきたので、俺もそれに応じて返事をした。
 
 体の調子を確かめようとオオカミ系モンスター、ヴォルフ君を討伐に来たが結構あっさり終わってしまった。
 後輩君が斬り付け、ぷにがタックルして、俺は一匹相手に苦戦していた。

「ぷに〜?」
「まあ、やっぱりないときついさ」

 ぷにが心配そうに足元で鳴いてきた。
 それというのも、いつものゴースト手袋を嵌めずただの手袋で戦っていたからだ。

「さすがに無警戒って訳にはいかないし、仕方ないさ」
「ぷに」

 塔の悪魔戦で負った怪我からの異常な回復、鎖を引き千切るほどの力。
 今思えば付けていたにもかかわらず、いつもの疲れもなかった。
 このあたりの要素から判断すると、とてもじゃないが使ってられない。
 元々よく分からない物だったのに加えてこの異常事態、リスク管理はしっかりしないとな。

「やっぱり塔の悪魔が原因なんかね?」
「ぷに?」

 互いに問いかけていると、後輩君がこちらへと戻ってきた。

「先輩やっぱり調子悪いんじゃないか?あんなん一匹に手こずってさ」
「そうかもな、まあぷにがいるから問題ないさ」
「ぷにに!」

 真実とはいえ、ここまで堂々と威張られるとイラっとくるな。

「それじゃ帰ろうぜ!」

 後輩君が意気揚々と街の方向へ歩いて行ったので、俺とぷにもそれについて行くように歩き出した。


…………
……


「あれ、トトリちゃんとミミちゃん?」

 俺たちがアーランドに帰ってくると、二人が黒い長髪の変な男に捕まっていた。

「なあ偶にはいいだろ? 客がいなくてさ……」
「何してる変質者」

 俺は近づいて行って、おそらくペーターとか言う名前をもっていそうな男の背中に蹴りを入れた。

「なっ!?」

 我ながら驚くほどきれいに決まり、憐れなる移動手段を持つ男は地面に倒れ伏した。

「アイム、ウィナー!」

 まったく常にストリートファイトの用意をしていないからこうなるんだ。

「い、いきなり何するんだよ!?」

 白馬が最も似合わない馬車主ナンバー1が起き上って抗議してきた。

「いやだって、嫌がってる女子二人に無理やりな接客をしてたからな……」
「やめろよその変な言い方!」
「全部事実だろ、ほら見ろ二人の怯えきった表情を!」

 ちなみに俺から見える二人の表情は、ミミちゃんはペタ男を冷めた目で見つめ、トトリちゃんは苦笑いだった。

「……馬車使ってやろうか?」
「な、何だよいきなり……」
「いや、可哀想だったから」

 俺は自転車で早々にペーターを廃棄し、トトリちゃんもトラベルゲートを作って他後輩二人もそれに便乗する形で一緒に移動している。
 それでも悲惨なのに、こんな冷めた扱い……俺なら耐えられない……。

「みんな、偶には馬車もいいじゃないか。たぶんこれが最後だけどさ」

 俺は最後の部分まで隠すことなく、みんなに伝えた。

「そうだな、まあしばらく使わなそうだし」
「まあ、これっきりッて言うならね」
「えっと、なんかスイマセン」

 この三人の返答を聞き、俺は今最も冷めている全米を震撼すらさせないある意味話題沸騰の男に話しかけた。

「よかったな」
「全然よくねえよ!」

 内心喜んでいるだろう、そう思いながら俺は馬車の方へと向かっていった。





「おお、数年ぶりの座り心地」
「ぷに!」

 最後に乗ったのはいつだったか、偶には良いものだな。
 俺の横に後輩君が座ってるのが納得いかないけどな。

「先輩、早速顔青ざめてるぞ」
「いや、ちょっと思い出して……」

 すごい乗り物酔いしていたような、そんな淡い十代の記憶。

「ぷに〜」
「…………」

 久々に殺意という物を自覚した。
 トトリちゃんの膝の上でマッタリとしている俺の相棒、人生そんな良い事ばかりだと思うなよ。

「ぷに?」

 ぷにが片目だけ開けて俺の方を見て鳴いてきた。羨ましいかい? と。

 もし声に出せるならこう言うだろう……残りの人生を全て捨ててもいいくらい羨ましいと――。

「あんたは一体何に殺気立ってるのよ……」

 ミミちゃんが呆れながらそう言ってきたが、死活問題です。
 隣が後輩君じゃなければ、うとうとした女子が俺の膝上に、逆膝枕が達成できたかもしれない。
 
 まさか馬車一つでここまで高度な駆け引きを要求されるとは、甘く見てたぜ。

 俺がそんなことを真剣に考えていると、正面のトトリちゃんから声がかかった。

「そういえば、アカネさん。本当に体は平気なんですか?」
「大丈夫大丈夫、オールオッケーよ」

 ここ数日の間、トトリちゃんは俺を見る度に同じ事を聞いてくるのだ。
 本当に心配症というか、良い子というか、まあ悪い気はしないけどさ。

「それにトトリちゃんのお母さんの仇討ちのために負った怪我、言うなれば名誉の負傷だしな」

 これが例えば、ペーターからの依頼で怪我したとなれば話は別だが。

「えっと、やっぱりそう見えるんですか?」
「? そう見えるって?」

 見えるも何も仇討ち以外の何物でもないと思うんだが、生贄に納得できないって部分も大きかったとは思うが。

「仇討ちに見えちゃうのかなって」
「違うのか?」
「えっと、ピルカさんにも同じこと言われちゃって」
「それで、トトリちゃんはなんて答えたんだ?」
「えっと……」

 俺のその問いに、トトリちゃんは少し良い淀み、恥ずかしそうに口を開いた。

「ぼ、冒険者だからですって……」

 顔を赤らめるトトリちゃん、そしてそれを聞いた後輩君が嬉しそうに言った。

「お、それかっこいいな!」
「ええ、あんたにしては良い事言うじゃないの」

 ミミちゃんもミミちゃんで、薄らと微笑みながら珍しく柔らかい口調でそう言った。

「ぷに」
「よーしこれから俺たちの合言葉は『冒険者だから!』決定!」

 俺もいつか誰かを助けたときに行ってみたいな、冒険者だからだ……みたいな?
 
「や、やめてくださいよ恥ずかしいです!」

 俺のその言葉にトトリちゃんは手をわたわたと動かして顔を真っ赤にしていた。

「いや実際良いと思うよ、トトリちゃんらしいし」
「本当にそう思ってますか……?」
「うむ、なんか俺にも皆にもピッタリな気がする」

 次にクーデリアさんに怒られたときにでも使ってみよう、たぶん許されないけど。

「先輩の場合面白そうだったからの方似合いそうだよな」
「ぷに!」
「おいこら、俺だって偶には思慮深い行動してるんだからな?」

 思い出せないくらいに、数は少ないが……。

「あんたって悩みとかもなさそうよね」

 後輩君に同調して、ミミちゃんがとてつもなく失敬な事を言いやがりました。

 悩みがないのが悩みなんて人生は生憎送ってません。

「今の俺の扱いとか、結構悩んでるんだぜ?」

 俺がそう言うと、ミミちゃんはため息をついて外の風景を眺め始めた。
 クッ、スルーですかそうですか。

 まったく、俺にだって人並みに悩みくらいあるというのに……。
 特に最近のトトリちゃんを見ていると、どうしても悩んじゃうんだよな。
 まあ、考えてどうこうなるもんでもないけどな。

「気分を害しました。僕は寝ます」
「ぷに〜♪」

 よかったなあぷに、良い枕があって。俺なんて背もたれ一つだよ。

「先輩、重いから肩によりかかってこないでくれよ」
「自惚れるな」

 俺はそれだけを言い残して、体重を後ろに預けて目を閉じた。



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