ある日、ある村がモンスターに襲われました。
 赤い悪魔や狼、鳥、種族の違うあらゆるモンスターが村を襲いました。
 彼らは統率された動きで、村を包囲します。 

 しかし不思議な事に、怪我人が数名のみで失った物は村にある全ての本だけでした。

 またある日は、馬車が、冒険者が、旅人が襲われました。

 皆が口をそろえて言います。本を奪われた……。

 黒い、真っ黒な人の様な影を見たと。












 一ヵ月ぶりに俺は冒険者ギルドを訪れていた。
 ちょっとクーデリアさんに言っておかなければいけないことがあったのだ。

「あれ、トトリちゃん?」

 ギルドの入口まで来たところで見知った顔に出くわした。

「わ、アカネさん。なんか久しぶりに見た気がします」
「あー、うん。ちょっとやりたい事があってさ」

 幸せ家族計画へ向けて、一歩ずつ歩んで行っているのだが、実は一向に成果が上がっていなかったりする。
 溜まっていくのは本ばかり、それも一割くらい読めない。

「とりあえず、クーデリアさんは……いたいた」

 ギルドの中に入ると、いつものカウンターでイライラした様子で紙束に目を通していた。

「どうしたんですか? 随分と機嫌悪そうですけど?」
「当り前でしょ、近頃バカみたいにモンスターが暴れまわってるせいでこっちは大忙しよ」

 ここは謝った方がいいのかね?

「でも狙われてるのは本だけだからいいじゃないですか」
「良くないわよ、て言うか余計に不気味じゃないの」
「でもどうして本ばっかり狙うんでしょうね?」

 俺の横でトトリちゃんが疑問符を浮かべていた。

 それはね、主に俺、主にアカネの為なんだよ。

「知らないわよ。ただ、どうもそいつらは北に集まってるみたいだから最近何回か調査部隊を送ったのよ」
「え、それじゃあ何か分かったんですか?」
「全然、全滅して帰って来たわよ。空から星が降ってきたなんて寝ぼけた事言って」

 呆れたような様子でクーデリアさんは肩を落としている。
 それに対して、調度いいので俺は今日ここに来た件について口にした。

「それですよそれ、その調査隊、うっとうしくて、ヤッちゃいそうなんで、もう送らないでくれますか?」
「は、何言ってんのよ?」

 むう、物分かりが悪い。
 今の俺は悪の親玉ポジ、出来る事なら正体はバラしたくなかったんだが。

「なるべく無駄な殺生はしたくないんですよ。俺はただ本を集めてるだけですから」
「アカネさん?」
「という訳で、俺は帰りますけど。ぷにの奴みたいに追いかけてきたら大変な事になりますからね?」
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ」

 俺はクーデリアさんの言葉を背に浴びながら、トラベルゲートを掲げて一瞬にして今の俺の拠点へと戻った。
















 それから一週間後。

 アーランド北部、常に夜である闇の領域を越えたその先、通称、黄昏の玉座。
 俺はそこにある巨人でも座るのかという大きさの石でできた無骨な椅子に寝転がっていた。

 ここは常に夜で、不本意ながら今の俺にとっちゃとても居心地が良いのだが……。

「これも違う、これも、これも、これも! せめて錬金術の本持ってこいっての」

 所詮は畜生の集まり、俺の欲しい情報がある本をこれまで一冊も持ってきやがらない。
 俺は舌打ち交じりに次の本へと手を伸ばした。

 玉座全てを覆い尽くし、百冊以上重なった本のタワーが幾つもある。
 俺は恐る恐る、小さな山から一冊を取り読み始めた。

「……うら若き乙女の日記、というよりもポエムか」

 玉座の下へ投げ飛ばした。

「その辺のドラゴンでも手懐けて大陸の外まで派遣してみるかねえ」

 俺がそんな事を考えながら、次の本をパラパラと捲っていると、遠くから爆発の音が聞こえた。

「あ〜、またどっかのバカが地雷に引っかかったか」

 調査隊が止む事がなかったので、一々出向くのも面倒になり地雷を埋めておいたのだが、意外と皆引っかかるもんやね。
 威力はそこそこ、まあクリーンヒットしても精々骨が折れる程度じゃないかねえ。

「はあ、俺の事は放っておいてくれればいいんだけどなあ」

 三日に一回防衛線を乗り越えて来るぷにもそろそろ懲りてくれればいんだが。
 最終的に俺は元の世界に帰るし、こんな俺みたいな奴のことにかまう事はないだろうに。


――次は半殺しにでもしてやろうか。


「ぷに! ぷに!」
「ん〜? 何だ何だ? 今日は調査隊の人と一緒にでも来たのか?」

 俺は本から目を離し、起き上って唯一のここへ至る道へ向き直った。
 幾つもの石の広場が浮き上がっている、最上級に冗談みたいな所だな本当に。

「って……皆来たのか……」

 闇の中から現れたのは、ぷにを先頭にして、トトリちゃんにミミちゃんに後輩君の後輩三人組。
 次いで師匠と、ステルクさん、マークさんにメルヴィア、意外な事にクーデリアさんまでもがそこにいた。
 なるほど、さっきの爆発はトトリちゃんか師匠の爆弾か。

「まさか本当にあんたがいるとはね」

 クーデリアさんがいつもの冗談とは違った視線で俺を睨みつけている。
 俺は仕方がなく、玉座から飛び降り十歩圏内ほどに近づいた。

「お前ら、手は出すなよ」

 円状に俺たちを囲んでいるスカーレットたちを片手を上げて制した。
 このまんま抑えられるとも思えないし、早々にお帰り願うか。
 帰ってもらわないと困る、怪我はさせたくないしな。

「先輩、その格好……」
「ああ、うん。言わんとする事はわかる」

 今の俺の姿はいつもの黒いジャージこそ損なわれていないものの、頭にはシルクハット、首には赤いマフラー。
 後輩三人にはあの塔の悪魔、エビルフェイスと同じように見えているのだろう。

「まあ、ツケだな。さんざん楽したツケが回ってきたんだよ」
「ツケ?」

 後輩君が疑問の声を上げる、俺はそれに答えるように口を開いた。

「この手袋、俺が闘う時ずっと使ってるだろ?」

 俺は手を上げてヒラヒラと見せつけるように手を振った。

「これ、ゴーストのモンスターの一部でさ、これ付けてると体力と引き換えで力が湧いてくるんだよ。たぶんこれのせいで取り憑かれたりでもしたんかねえ」

 長期間付けていれば、それだけ効果が上がってるってことはつまり良い具合に同調して言っていたってことだろう。
 黒の魔石を持って力が溢れてきた辺りでおかしいってことに気付ければよかったんだけどな。
 あれって普通の一般人が持ってると気分が悪くなったりするってことは知ってたはずなんなんだけどな。

「ほら、ゴーストあいつって微妙に見た目似てるじゃん?」

 ゴーストは黒い球体にシルクハット、黄色い目、赤い口、手袋。
 エビルフェイスと当て嵌まるのは黒い顔に、赤い口、シルクハット、白い手袋。

 波長が合ったんだ。あいつ俺の事見てやたらニヤニヤして、最後はやけにあっさり消えたし。

「しかし君は何故そんな物を使っていたんだい?」

 マークさんがが当然の疑問を口にした。
 
 この手袋との馴れ初め、偶然見つけて、メルヴィアに負けたのが悔しくて使って、強いモンスターにはこれなしじゃ立ち向かえなくなって……。
 つまり、俺がこれを使い続けた訳は。

「これがないと俺が皆についていけなかったからだよ」

 元学生が立ち回りもできない、体力もない、力だけの俺が皆と一緒に冒険に行くには使うしかなかった。
 トトリちゃんを守るって言う約束を守るためには使うしかなかったんだ。

「皆といたい、その想いの結果がこれだよ。分かったら帰ってくれないか?」

 俺の懇願もむなしく、トトリちゃんは一歩前に出て答えた。

「イヤです」

 それに続いてミミちゃんも一歩踏み出して口を開いた。

「だいたいそれとあんたが本集めんのと何の関係がんのよ」
「俺は家族の所へ帰りたい、こいつもココから逃げ出したい。利害は一致してるんだよ」
「は?」

 ミミちゃんが何を言っているんだこいつは、そんな表情で短く声を上げた。

「考えてみろよ、人間にぼこられて塔に押し込められて、生贄もらって生活してたら人間一人にやられかけて、最後にまた人間で本当に消滅しかけたんだぜ?」

 そんな彼も、俺の思考を読んで俺が帰る場所がどこかを知ったようで、便乗して一緒に行こうという魂胆のようだ。
 こんな化け物みたいな人間がいる世界にいられるかってことだろう、まあ俺の世界は俺の世界でミサイルで一発でやられそうだけどな。

「意味分かんないわよ、帰るってどうせ海の向こうでしょ? それならただ船作ればいいだけじゃ……」
「ふむ……うんそうだな。それ言ったらトトリちゃんたちも皆も俺に愛想尽かして帰ってくれるよな」

 いい加減ガキの質問攻めにも飽きてきたところだ。ここら辺で、お帰り願おう。
 俺は大きく息を吸い込み、吐き捨てるように言い放った。

「俺はな、海からなんか来ちゃいないんだよ!」
「え……」

 トトリちゃんが驚いたような、理解できていないような、そんな声を上げた。
 他の皆も同様に驚いたような様子を見せている。
 言った言ってしまった。もう後戻りはできそうにない。

 俺はさらに畳みかけるように言葉を紡いでいく。

「俺はな自分のだ! 自分の立場とか考えてずっっと嘘ついてたんだよ! 分かるか?」

 初めはギルドで冒険者免許を貰う事から、次はその嘘でアカネさんは凄いという後輩君やトトリちゃんたちの評価。

「トトリちゃんのお母さんの事を知っても本当の事言わないで、海に誘われた時もこの嘘で逃げたしたんだよ。どうだ? 分かるだろう? 俺がどれだけダメな奴かって」
「わ、分かりません! アカネさんはちゃんと一緒に来てくれました! きっと嘘をついてたのにも事情があって……」

 気丈に言い返してくるトトリちゃん、こんな奴の何がそんなにいいのだろうか。
 分からない、なんで未だに俺に愛想を尽かさない。

 ズルして闘えるフリして、ずっと嘘ついてたのをバラしたのに。
 いい加減、最低とか言い出して帰ってくれてもいいじゃないか。

 まだ足りない、まだ足りないというのなら俺にだって考えがある……。

 俺は腰につけているポーチから、一つの円状の物を取り出した。

「え、それって……」

 師匠が声を上げた。そう、これは師匠とトトリちゃんがくれたプレゼント。
 シルバーのリング、戦闘中に壊しそうで怖いからしばらく付けていなかったが……・

「ぷちってね」

 右手の親指と人差し指でそれを潰し、粉々にした。
 銀色の小さな塊が次々に地面へと零れ落ちて行く。
 全員が信じられないようなものを見る目で俺を見てきた。

「どうだ? 流石にこれで分かっただろ? 俺は最低の奴なんだよ」

 早く帰れ、早く帰ってくれ、頼むから早く帰ってくれ。

 俺のそんな思いとは裏腹に全員が打って変わって俺を疑うような目で見ている。

「君の……」

 ステルクさんが鋭い眼光が俺の事を貫いた。

「普段の君の行動が悪意からのものであれば我々もここに来てはいなかっただろう」
「何を……?」
「だがらこそ、今の君の行動がただの悪意からとは思えない」
「そうだよ、先輩がんなことする訳ないしな。こないだなんて、一日が指輪を磨いてたら終わってたとか言ってたし」

 さきほどの張りつめた様子とは一転して、軽いノリで後輩君がそんな事を言っていた。
 と言うか何をカミングアウトしてるのこの子?

「うん、わたしだってアカネ君がそんな事する子じゃないって知ってるもん!」

 師匠が真面目な顔をして、俺の顔を見つめてきた。
 そうだよ、俺だってこんな事したくもないよ。

「分かった……」

 俺は小さく呟いた。
 この四年という年月は短くなかったようで、思いのほか皆俺の事をよく知っているみたいだ。
 これだから愛され系ボーイは困っちゃうね本当。
 よくよく考えてみれば、今更出身どうのこうので仲たがいになる訳ないなんてことずっと前に分かってたよな。

「これ言うと余計帰ってくれなさそうだから黙ってたんだけど……もうすぐ行動全部が悪魔側に取られちゃうんだよ」

 こないだも気づけば海にいたり、トトリちゃんの家の前にいたり、随分と力が弱っているようで長時間は奪われないが色々と危うい状況だ。
 思考も大分危ない事になってきてるし、正直言うとちょっと怖かったりする。

「だから帰ってください! 俺ならそのうち元の場所に帰るから! 俺の事は忘れてくれると良いと思う!」
「何? 要は自分の事は自分でどうにかする。危ないから帰れっての?」
「まあ、そうなるな」

 いままで柄にもなく沈黙を保っていたメルヴィアが口を開いた。
 嫌われることを覚悟した発言が一言でまとめられるとどことなく物悲しいな。

「いいわよ。皆帰りましょ?」
「メルお姉ちゃん!?」
「おお、メルヴィア流石はここぞという所で空気の読め……」
「た・た・し!」

 俺の言葉を遮ってメルヴィアは指を一本突き立てた。

「一発殴らせなさいよ」
「殺す気だ」

 待て待て、塔の悪魔インアカネな状態と言ってもそんなに強くなった訳じゃないぞ。
 戦闘力面で、悪魔の力に錬金術が兼ね備わり最強に見えるみたいなレベルであってだな。

「理由をお聞かせ願いたい」
「だってねえ、あんたあたしに嘘ついたじゃない」
「嘘?」
「ええ、いつだったか忘れたけど、海から来たなんて嘘はやめてってあたし確認取ったわよね?」

 そう言えば昔にそんな事があったようななかったような……。
 もしかしてその件で俺今から殴られるの?

「待て待て、今更俺らって出身どうのこうのでどうにかなる仲じゃないだろ」
「ええそうね。でもこのあたしに嘘をついたってのがどうにも気に入らないのよ」

 暴君だ。暴君がいる。周りにいる皆も若干引いてるよ。

「どうせあんたどこだかも知らない場所に帰るんでしょ? だったら一発くらいいじゃない」
「さっきまで殴るだったのになんで斧構えてるんだよ」

 両手に得物を持ったメルヴィアはそれをしっかりと持ち上げて、今にも切りかかるような体勢でした。
 あれ? 俺って大陸を脅かす大魔王みたいな存在じゃないの?

「はあっ!」
「ひうっ!?」
「……?」

 塔の悪魔さんのようにプレッシャーを放ってみたが、後ろにいる師匠を驚かすだけで終わってしまった。
 どうしたらいんだろうこの空気。
 
 俺が戸惑っていると、メルヴィアは一歩二歩と間合いを詰めてきて……。

「待て待て! それ以上近づくと流石にどうなっても知らんぞ!」
「あら、どうなるのかしら?」
「どうなるって……悪魔が前面に出てきて……」
「だったら悪魔の方をぶった切るまでよ」

 この子は一体何を考えているんだ。
 やっぱり皆、特にメルヴィアは俺の事が嫌いとかそういう話なのか?

「どうせ一発殴ればあんたも元に戻るでしょ」
「いや、そんな壊れた機械みたいに言われてもな……」
「ほら、トトリも何か言ってやんなさいよ」
「えっと……頑張ります?」

 先輩的には頑張らないでもらいたいんだけどな。そこは。
 もしかしなくても皆VS俺の構図が出来上がってんの?
 まさかのアカネラスボス説が浮上し始めてんの?

「引く気はないんだよな?」
「ええ、引っ張ってでも連れて帰るわよ」
「……はあ」

 思わずため息をついてしまう。
 一度倒せば元に戻る、確かに常套手段っちゃ常套手段だけどさ。

「おーけー、皆の愛と勇気と正義が奇跡を起こすと信じてる。宿主が傷めつけられたら流石に出てくるだろ」

 俺が意識を緩めた途端、体の感覚がなくなっていく、手が足が俺の思うように動かない。
 そして残ったのは僅かな視覚とぼんやりとした思考のみだった。


…………
……



 ふと気付くと、数十体ものスカーレットが雄たけびを上げてトトリちゃんたちを襲っていた。
 それを師匠とクーデリアさんマークさんとステルクさんが必死に食い止めている。

 
 斬りかかってくる後輩君とミミちゃんを両手でいなし俺は左右へと投げ飛ばした。



…………
……



 待ち構えるメルヴィアにフラムをひたすらに投げつけ、投げつけ、投げつける。
 スカーレットの支援もあり押され始めるメルヴィア。


…………
……



 鎖で足を拘束されているトトリちゃん
 そして、俺は隙ができたトトリちゃんに向かって一直線に飛び込んで―― 


――その左拳がトトリちゃんに突き刺さる



「できるかああ!!」

 意識が浮上する!
 真っすぐ吸い込まれるかのようにトトリちゃんへと伸びる左腕。

 俺は全身全霊を掛けて右腕をその凶刃へと叩きつけた。

「俺が! トトリちゃんを殴れるわけねえだろうが!」

 左腕の骨が、右手の指の骨が砕けた。

 同時にトトリちゃんが投げたフラムが俺の顔面へとぶつかって、俺の黒い悪魔はどこか遠くへと吹き飛ばされた。











 背中に冷たい石の感覚がある。
 どうやら俺は見事にやられて仰向けに横たわっているようだ。

 俺が目を開くと、そこにはトトリちゃんが涙目で俺の顔を覗き込んでいた。

「あ、アカネさん! ごめんなさい、大丈夫ですか!」
「トトリ…………ちゃんはっ……悪くない……」
「アカネ君!」

 師匠がトトリちゃんとは反対側から顔を覗き込ませてきた。

「みんっ……な…………の事……好きだった……よ」

 俺の瞼は静かに下りて、視界が黒に染まった。

「アカネさん! アカネさん!」

 トトリちゃんの涙と、他の皆が俺の名前を呼ぶ声だけが最後に俺に残されたものだった。











 


































「ぷに!」

 あおふっ!?

「はっー! はっー!」

 今まで大人しく見守ってたと思ったら、こいつは!
 男の! 男のクリティカルポイントに! こいつ一体何しやがる!

「てんめえ! 今からトトリちゃんが泣きながら抱きついてくる予定だっただろうが!」
「ぷににににに!」
「そして愛と涙の力でアカネ復活! そのプランをこの腐れぷには……――ハッ!?」

 周りを見渡せば、俺の事を皆が生ゴミでも見るかのように冷たい視線で……。

「ち、違うんだよ! これはさ、想い出、想い出のちょっとしたエッセンスになるかな〜って思ってやったわけで悪気はないんだ」

 トトリちゃんの方を見ると、顔を落として肩を震わせていた。

「アカネさんなんか……アカネさんなんか……」


――大っ嫌い!!


「…………」

 当初の目的通り嫌われたらしい、嫌われ……嫌われ?
 俺のトトリちゃんを守ろうとした気持ちが、奇跡を生んだような気がしたけど気のせいだった?

 好き、愛、ラブ、抱きしめたい、可愛い、大切にしたい。
 嫌い、憎悪、ヘイト、ぶん殴りたい、気持ち悪い、生ゴミ。

 スキ、アイ、ラブ、ダキシメタイ、カワイイ、タイセツニシタイ、
 キライ、ゾウオ、ヘイト、ブンナグリタイ、キモチワルイ、ナマゴミ。

「アババババババババ」

「うわ、先輩が壊れた」
「自業自得だな」

 大っ嫌いの対義語は大好き、つまり平衡正解においてはこれは大好きという意味であり、遠回しな告白と受け取れる。
 待っていておくれ別次元のトトリちゃん。

「アハ、アハハ、うへへへ」
「そうそう、私が来たのはこれを渡すためだったのよ」

 ヒラリと失意に膝を突く俺の顔に一枚の紙が突きつけられた。


貴重書籍略奪等々

   合計百万コール


「これは?」
「頑張って返しなさいよ」

 もう一度見る、奇跡的な線の減り方で一万コールになっていないか期待したが無駄だった。

「ぷに……俺が七でお前が三だよなあ……?」
「ぷにぷに」

 涙を流しながらぷにを見ると、ぷには体を横にふるふると否定するように振った。

「あ、ああ……あああ…………ぐへへへへ」

 なんだろう、ちょっと楽しくなってきちゃったぞ♪

「皆もう帰ろ、アカネさんのことなんてもう知らない!」

 トトリちゃんが涙目で俺を一つ睨みつけてから、俺に背を向けて、背を向けて帰っていく。






「アカネ君のアーランドの旅はまだまだこれからだ〜……ふふっ、うへへ…………ううっ」

 いつも星空が煌めく夜の領域に、珍しく雨が降った。

 母さん、父さん、妹と弟よ、アカネはしばらく帰れそうにないよ。




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