3月に入り腕の怪我も見事に完治!
 さあ冒険へ行くぞ! と思っていたのだが……。

「何故に俺は親っさんのところに行かなければならないんだ?」
「ぷに〜」

 ぷにが頭上で投げやりに返事をした。もうちょっと思いやりと言う物を持ってほしい。
 まあ理由は簡単だ。
 トトリちゃんの材料採取について行こうとしたら、ムスッとした顔をされて。

『アカネさんはあの変な手袋以外で闘ってください、まったくもう、ぷんぷん(誇張表現)』

 と、若干のお怒りの言葉をもらってしまったのでこうやって親っさんのところにおもむいているわけだ。

「まあ結局はあの手袋を使うんですけどね」
「ぷに!?」
「俺の拳と言うアイデンティを保つためには必要な処置なのです」
「ぷに〜……」

 こいつ全然反省してねえ、そんな事を言われても今更まっとうな武器で闘うなんて無理なことです。
 
「ばれなきゃ平気、何物も」
「ぷに……」
「あ、いた! 先輩!」

 口を微妙に歪めて悪い顔をしていると、突然後ろから声を掛けられた。

「ん? どうしたんだ後輩君?」

 振り向くとそこには微妙に息を切らせている後輩君の姿があった。
 一体何の御用事なのだろうか。

「よく分かんねえんだけど、先輩が武器買うの見てろって言われてさ、急いで追いかけたんだよ」
「…………」
「ぷににににに」

 なるほど、トトリちゃんには俺の考える事はお見通しってわけか。
 彼女には俺がそういう事を平気でやる悪戯っ子に見えてるんだろうなあ。

「ふんっ!」
「ぷに!?」

 頭のぷにをはたき落して、俺は店の扉の前に立った。
 
「クックック」

 トトリちゃん、君のミスはただ一つ、お目付役に後輩君を選んだ事さ。
 ちらりと横目でボケっとした表情をしている後輩君を見る。

「? なんだ?」

 大丈夫この子ならうまく出しぬけるはずだ。
 俺は心の中で頷き、扉を開いた。

「ん? なんか妙に暗いな」

 開けると中は真っ暗で鍛冶に使う炉の火すら灯っていなかった。
 かろうじで中の様子が扉から差し込む光で見える程度だ。

「親っさんいます…………ん?」

 暗闇に目が慣れてきたからか、奥の方で何かがごそごそと動いているのが目に入った。

「なんだ、そんなところに――――」

 頭が光ってない人と、目があった。

「…………」
「…………」

 親っさんの頭の上に何かが乗っていた。
 決して暗さからの見間違いじゃないおかしい、何か間違っている。

 思わず目をぱちぱちとして、目をそむけ、外へ出た。
 
「ぷに?」
「どうしたんだ先輩?」

 後輩君とぷにが不思議そうな眼で見てくるが、俺に聞かれても分からない。

「もじゃもじゃだった……うん、もじゃもじゃ」

 後ろ手に扉を抑え、空を見上げて深呼吸をした。
 うん、アレはただの見間違いだ。
 アフロなんてなかった。そうだ、そう言う事にしておこう

 そんな風にできたら俺の人生はもうちょっと楽だったんだろうなあ。

「なあ、先輩。どうしたんだよ?」
「うっさい! 子供は黙ってなさい!」
「な、なんだよ……」

 とりあえず考えられる可能性としては三つある。

 A.創造神として顕現した親っさんの真の姿
 B.実は地毛
 C.魔法少女として契約した代償

「今の一瞬で良いから俺の頭良くなんねえかな」
「ぷに!」

 そうですよね無理ですよね、これが高校中退の人間の限界って奴か。

「もういいからさっさと入ろうぜ」
「そういうところ好きだぜ」

 後輩君は俺をのけて店の中へと入っていった。
 こういう思い切りの良さがイケメンの秘訣なのかもしれない。
 何も考えずに行動するような性格だったら、俺も今頃モテモテなのかもな。

「先輩、別に何にもないぞ?」
「え、嘘。マジで!?」

 出てきた後輩君はケロッとした表情をしている。
 まさか洗脳とかそういう技の類ではなかろうな。

「お、お邪魔しまーす」
「おう、らっしゃい!」
「ひっ!?」

 いつも通り、そういつも通りに親っさんは腕を組んで姿勢で俺を迎えてくれた。
 当然、何かに引き寄せられるように視線は頭部に行くのだが……。

「うん、光ってる……」
「あん? なんだって?」
「あ、いやいや、なんでもありません事よ」

 これは俺はどうしたらいいんだ。超高度なツッコミ待ちとも捉えられる。
 だがアレは親っさんにとって触れられたくないプライベートだったのかもしれない。
 分からない、怖い、怖いよ……。
 いつも豪快で筋肉な親っさんが一度一人になったらいつもあんなことをしてると思うと……。

「親っさん、ちょっと武器見せてもらいますね……」
「ん、ああそうか、なんか知らねえけど元気出せよ!」

 この態度もさっきの事は黙ってろ的なアピールなのかもしれない。
 次にまた同じことがあったらどうしたらいいんだろうか。

「つーか先輩武器って何使うんだ?」
「あー、うん、そうだな」

 さっきのは親っさんから逃げ出すための言葉だったからな。
 あまり興味はないが壁にかかってる武器などを見回してみる。

「ふむ、これもロマンっちゃロマンだよな」
「ぷに」

 壁に張り付けられていた弾装が回転式の銀色で塗装されたリボルバーを手に取った。

「こう、顔の前で水平に構えて敵に銃口を向けてさ」

 引き金に指を掛け、銃口を後輩君に向けた。

「親指で弾装に弾を込めて、バン! って撃って、銃口を口でフッて煙を息で吹き飛ばす」
「ぷに?」
「西部のガンマン、俺の憧れる職業ナンバー3に入るな」
「ふーん、こうか?」

 俺から銃を取った後輩君は俺と同じように水平の銃口を俺に向けた。

「あれだな。銃口って自分に向けられると結構嫌な気分になるよな」
「ぷにぷに」

 クーデリアさんの被害を思い出す俺たちは感慨深く頷いた。

「金髪だと結構様になってるな、んで、そっから――――」


 バン!


「ほあああああああああ!?」

 何! 一体何!? 撃たれたの、俺撃たれたの!?

「や、やりやがったな後輩君…………!」

 脇腹を手で押さえて俺は壁にもたれかかった。

「いや、今の音だけだったぜ?」
「え、あ…………」

 よく見てみれば俺のジャージは黒いままだったし痛みもなかった。
 なんか恥ずかしくなってきたよ。
 実弾で撃たれても意外と痛みってないんですねとか考えてたよ。

「ちくしょー、帰ったらシューティング要素のあるゲームをこの世から根絶させてやる」
「ぷにに?」
「逆恨みとかじゃないし、ほら次々」
「ぷに〜」

 脇のタルに入ってた杖を一本取り出す。
 紫の土台の先に透明な水晶があしらえられた上品な杖だ。

「ほほう、良い仕事してますねえ」
「あ、それこないだトトリがトトリの先生にあげてたのと同じ奴だ」
「あ、そうなの?」
「たしか、賢き者の杖とか言ったっけな?」
「うわ〜」

 途端に師匠の顔をが思い浮かんでくる。
 けん‐じゃ【賢者】道理に通じたかしこい人。最も賢き者。

「…………」

 自分の持っている杖をついつい見つめてしまう。


『えっへん、わたしはこの世界で一番賢いんだよ!』


 微笑ましい事この上なし。

「まあ先輩には似合わないよな!」
「ハッハッハ、この野郎言いやがったな」
「痛っ!?」

 杖の先で殴打してやった。
 まったくこの子は世渡りが下手なんだから。

「もっとクールかつナウでヤングな装備が良いな」
「ぷに?」

 ナウでヤング、いわゆるデッドワードで奴さ。

「お、このマントとか先輩に似合いそうだぜ!」
「ほほう?」

 後輩君がどっから取ってきたのかマントを両手でヒラヒラとさせていた。
 黒いマントと、さらに裏地が赤で上品だ。なかなか心得ているではないか。
 受け取ったマントを広げて、ついつい過去の病気が蘇ってしまいそうになる。

「カッコイイけど、これって怪盗とかそういう類の人の装備じゃないか?」
「その通り!」
「うわっ!?」

 突如後輩君の後ろに親っさんが現れた。

「そいつは昔アーランドで活躍していた正義の怪盗のマントを模して作ったもんなんだよ」
「はあ」

 そして聞いてもいない事を語ってくれた。

「正義の怪盗……ねえ」

 あれ? でもこのマントどっかで見たような気がする……。
 何とはなしにマントを背中に広げ、身につけてみた。

「怪盗かあ、だったらコレだよな!」
「あ、どうも」

 後輩君のイメージでは怪盗の武器はサーベルらしい。

「ぷに!」
「なんで置いてるんだ?」

 ぷにが黒のシルクハットをくわえてきて俺の頭に載せた。

「仕上げはこいつだな!」

 目元を覆い隠す黒いマスクが俺の目に付けられた。
 そしてジャージの胸ポケットに一輪のバラが添えられた。

「なんで俺が着せられてんの?」
「いや、なんかマントが似合ってたからつい」
「ぷに」
「ああ」

 この店の品ぞろえとかいろいろツッコミたいが、おそらくそうとうに妙な格好になってるだろうから早々に脱ぎたいんだが。

「こっちに鏡あるぜ」
「まあ、見るだけ見とくか」

 親っさんの誘導のままに俺は奥の方に入り込み、眩く光を反射している鏡の前に立った。

「お、おお!!」

 黒いシルクハットに黒い髪、黒いマスク、黒いジャージ、黒い靴、胸元にはチャームポイントの赤いバラ。
 腰に携えてあるサーベルが紳士的なオーラを放っている。

「いいなこれ!」
「んじゃあ、もうちょっといろいろやってみっか!」




















「すげえ……」
「ぷに」

 思わず感嘆の言葉を放ってしまう。

 黒のジャージが黒のタキシードに変化しただけで印象が段違い。
 さっきの銀のリボルバーが腰に収まり、より全体的な雰囲気が引き締まった。
 
 つか、俺カッコよくね?

「やばい、俺がここまでの逸材だったとは」
「そういや前いた怪盗と師匠の嬢ちゃんは闘った事があるって話を聞いたっけな」
「よーし行ってきます!」

 俺はマントをはためかせ意気揚々と外に出た。
 驚かせるついでに、俺の事恰好を見て師匠が、アカネ君にはこういう格好の方が似合うねって言ってくれればさらに嬉しい。

「まあ、微妙な羞恥心は残ってるよな」

 あまり人目につかない路地裏に入り込み、足元に気をつけながら駆けていった。

「見つけたぞ!」
「え?」

 突然、後ろから怒声をかけられた。
 止まって、振り向くとステルクさんが剣を振り下ろして――。

「覚悟!」
「人違――!?」

 そこで俺の記憶は一旦途切れた。

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