迷子になってから歩くこと数日、未だに俺は迷える子羊状態である。
 海岸に出たところで、俺とぷには砂浜に座りこんで一休みしていた。

「人が通ったような痕跡はちらほらと見かけるものの、まったく見つからない」
「ぷに〜」
「アタッカーメルヴィアが優秀すぎて、サクサク進んでいるんだろう。俺には分かる」

 出てくる敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、モンスターに一切の慈悲も与えずに斧で粉砕と言ったところか。
 モンスター視点で見たら大分悲惨なのは言うまでもないな。

「大分休まないで来たのに追いつけないのは一体何故なんだ?」
「ぷに……」
「悪かった。分かってるからそんな目で見るな……」

 二日ほど前、大分深い森で進行形で迷っていた俺は方角を見失いさらに迷ってしまったのだ。
 これはもう歴戦の冒険者(笑)が本格的に笑い事じゃなくなってきた。

「ここはこのいかにもな熱帯雨林で俺の手腕を見せつけるしかないな」

 俺の背後には植物で生い茂っている、凶悪モンスターがいますといった雰囲気を出した熱帯雨林がある。
 おそらく熱帯雨林だ。テレビで昔見た熱帯雨林がこんな感じだったし。

「マッピングをしてモンスターを倒して、帰ったら冒険者ランクがアップ、そして永久ライセンスへ一歩近づく」
「ぷに〜」
「妄想じゃない、ほら行くぞ!」
「ぷにに」

 立ち上がり、俺は砂浜から緑の大地へと足を踏み出し歩き出した。



「……おい待て、なんだこれは」
「ぷに?」

 歩き出して一分もしない場所に凄いものがあった。

「これは……あれか?」
「ぷに」

 俺の目線ほどの高さには、肩幅ほどある赤い口、緑のギザギザした歯の様なモノ。
 茂みの中から真っすぐ伸びているそれは、どこからどう見ても食虫植物だった。

「やっぱり熱帯雨林だ」
「ぷにぷに」

 肩に乗ったぷにも興味深そうにのぞき込んでいた。
 食虫植物となると、やはりここは無視の一匹でも入れておきたいところだが……。

「ロイヤルヘラクレスオオカブト、短い付き合いだったな」
「ぷに……」

 ポーチから取り出した金のカブトっぽい生き物、きっと彼はこのために捕まえられたんだろう。
 初めての体験でちょっと緊張しつつも、俺は口の中へと彼を投げ込んだ。

「おおっ!」
「ぷにぷに!」

 本能的な恐怖からか逃げようとする彼を食虫植物は口を閉じて見事に捕食した。
 きっと今ではじわじわ溶かされてるんだろう……なんか急に可哀想な事をした気分になってくるな。

 とりあえず面白い物を見れたし良いかと思いながらも、俺は歩き出そうとしたところで、ぷにがいきなり大声を出した。

「ぷにに!」
「どうした……――っておおおっ!?」

 振り向き食虫植物を見ると、口の中に肉が入っていた。
 決してカブトのなれの果てではなく、狼とかの獣っぽい肉だった。

「まさかこいつも錬金術士……!」

 こんなところにも同業者がいるとは侮れない、とりあえず肉はありがたく頂いておこう。

「スゴイな熱帯雨林」
「ぷに」








 歩くこと数分して、俺は飛んでいるムカデ、もといジブリ虫を見つけた。
 口に鋭いハサミを持った羽があるムカデ、こいつらはもうちょっと頑張ればジブリに出演できると思う。

「奴らには手を出すなよ。森の怒りに触れることになるやもしれん」
「ぷに?」
「まあいざとなれば薙ぎ払え! って出来なくもないんだけどな」
「ぷに〜?」

 帰ることができたらこいつも連れて帰ろう、いろいろと教えてやらねばならないようだ。

「となると凶悪モンスターがいるとしたら奴らのボスあたりか」
「ぷに」

 メルヴィアがいたら問答無用で襲いかかる所を止めるんだけどな。
 彼らは住処に踏み込まれて怯えているだけよ、みたいな。

「あれ? もしかしてもう倒されてるんじゃないか?」
「ぷ、ぷに……」

 道なりに歩けばきっとトトリちゃんたちも此処を通っただろうし……。
 つまりもう森の怒りには触れてしまっていると言う事か。

 ……金の羊は俺に倒され、道行く魔物は俺達とチームトトリ、そして此処ではボスを殺され混乱が起きている事だろう。
 一体ここのモンスターが何をしたと言うのか、人にも特に迷惑はかけていないだろうに。

「ぷにぷに」
「モンスターはそれだけで悪、そういう事か……」
「ぷに」
「ツッコミはしないからな」

 とりあえず、出来る限りこの辺のモンスターには優しくして進むとしよう。

「そう心に決めた瞬間にこれか」

 赤いジブリ虫が二体襲いかかってきた。
 とりあえずどういう原理で飛んでいるかだけ教えてほしい。羽が飾りなのは分かりきってるので。

「よーし、久しぶりに風の谷のアカネの本領を発揮してやろう」
「ぷに!」

 俺が一歩前に出ると、声援だけよこして肩から飛び降りるぷに。なんて薄情な奴だ。

「ふん、そこで見てな」

 俺は両手を開き大の字の姿勢を取った。

「俺は敵じゃない、ほらおいで」

 ジブリ虫二体は少しずつ俺との距離を詰めてきた。
 これは心が通じ合うフラグと見たぜ。

 目と鼻の先まで来たところで、俺はある物が足りない事に思い至り口を開いた。

「ラン! ランララランラン! ラン! ランランラララン! ――――うおいっ!?」」

 アカネアレンジのBGMを付けたところで俺は思いっきり頭を噛まれかけた。
 寸でのところで後ろに尻もちをついて回避したから良かったが危なかったぜ。

「ふふっ、分かっている怯えているだけなんだよな。平気だぜ、苦しみのない世界に送ってやるからな」

 優しい頬笑みを顔に張り付け、メガフラムで周囲の草木ごと薙ぎ払った。




「……ダメだな、やっぱり俺にはモンスター使いの才能はない」
「ぷに」
「下手に優しさを見せて、あのスカーレット事件みたいになっても困るしな。うん、モンスターは滅ぼすべきだ!」
「ぷに!」

 お前が言うなってスゴイ言いたいけど、言ったら負けな気がする。








「おかしい……時空が歪んでいるのか?」
「ぷに〜」

 あれから五日、そろそろ島の最東端も近くなってきたというのに未だに見つからない。
 今現在いる木々が生い茂って日の光も届かないような森林、ここにも彼女らの痕跡はある。

「なんでこうもボス級ばかり倒されているのか」

 そこには砂漠にもいたようなベヒーモスっぽい生き物の亡骸があった。
 腐ってもいないし、特に痛んでもいないから大分近くにいるとは思うんだが……。

「なんか戦闘に張り合いのない冒険だよな」
「ぷに」

 未だに俺の封印されしゴースト手袋すら解禁していない。
 伝説級のモンスターが世界樹の下にいると信じよう。









「…………」
「…………」

 ぷにとの会話も尽き果てて、無言で歩みを進めていると見覚えのある三色が目に入った。

「あ、アカネさん!」
「お、先輩!」
「はあ、やっと来たわね」

 手を振り迎えてくれた皆に俺は手を振り返した。
 苦節二週間ほど、ようやくトトリちゃんたちと合流できたぜ。

「なんだかんだで俺の事を待っていてくれたってことか……んっ?」
「ぷに〜……」

 三人の前には大岩が立ちふさがっていた。
 なるほどそういうことですか、ちくしょうめ。

「こんな岩程度、メルヴィアが本気出せば割れるだろ」
「嫌よ、手が痛いじゃない」
「…………」

 否定しないのか、俺はそう目で語った。

「何よその目は」

 別になんでもないと言って、岩の方に向き直った。
 戦闘がなく余りに余ったフラムをまさかこんな事に使う事になろうとはな。

 フラム二個で岩を粉砕し、使えそうな素材だけ取って俺達は揃って目的地を目指して歩き出した。

「そういや、トトリちゃんは爆弾持ってなかったのか?」
「えっと、闘いが多くてたくさん使っちゃって……」
「まあ、仕方がないな」

 なんか特に旅の思い出の共有とかもできなくて寂しい先輩です。
 この後で凄い事が起きてくれればいいのだが。

「そういえば先輩なんでどっか行ったんだ?」
「夢とロマン故にだ」
「なんだよ? 宝でも見つけたのか?」
「…………」

 俺は黙して歩みを進めた。何も言いたくないのです。









 夜を明かした翌日、俺たちはようやく辿り着いた。

「そう、ここが約束の地。世界樹ユグドラシルがそびえ立つ世界の中心。神々の試練がここに始まる」

 遠くからでも分かるほどに大きな樹が浮かんでいるのが見える。
 うん、浮かんでいる。
 というよりも樹に至る一本の道が既に浮かんでいる、周辺の地面が結構浮かんでいる。
 世界樹さんなんて大きすぎて根っこがはみ出しちゃってますし。

「なんだろう、なんで当然の様に浮かんでるんだろうな」
「ぷに〜」

 ぷにも分からないらしい、とりあえずファンタジーと言う事で納得しておこう。

「まあ、とにかくこっからが俺の見せ場だぜ」

 ポーチから手袋を取り出し、俺は手に嵌めようとした。

「ああーーー!!」
「にゃっ!?」

 突然横にいたトトリちゃんが俺の方を見て大声を発した。
 一体俺が何をしたと言うのだ。

「アカネさん!」
「は、はい?」
「なんでまだその手袋持ってるんですか!」
「…………」

 そういえば昔、そんなことで怒られて武器屋に行った記憶があるぜ。
 そして結果、怪盗が誕生した訳だ。

「……これはあの手袋じゃないんだぜ」
「嘘です!」
「嘘じゃない」
「むうっ」

 トトリちゃんが俺の目を見てあからさまにむくれたが、かわいいだけである。

「アカネさん、嘘つくとほっぺが赤くなるんですよ」
「ふふん、トトゥーリエ・ヘルモルトよ、この俺がそんな引っ掛けに乗るとでも?」

 所詮は浅知恵よ、漫画などでそういう関連の知識だけは豊富だからな。

「えっ? でも……」

 トトリちゃんが急に真顔になり俺の顔を覗き込んできた。
 その反応についつい、俺は頬を触ってしまった。

「え? ウソ?」
「嘘ですよ!!」

 トトリちゃんは、若干キレ気味な感じでそう言い放った。ただ、うーって唸っているので台無しだ。
 ただ今にも手袋をひったくりそうな形相だったので、大人しくしまい込み両手を上げた。

「おーけー、今日はなしでやる」
「ずっとです」

 進路へと顔を戻した。

「…………」
「むー、アカネさん?」

 横目でちらりと見ると、ちょっと泣きそうにも見えたので俺は仕方がなく頷いて言った。

「おーけー」
「約束ですよ」
「あいよ」

 なんという過保護、なんか最近子供扱いされているような気がしてならない。

「あんた達何してんのー? 置いてくわよー」
「あ、待ってメルお姉ちゃん!」

 トトリちゃんが急ぎ足で進むのに俺も後ろから追いかけた。
 ちゃんと活躍できるよな、俺?





「これが運命の選択か……」
「先輩、次があるって」
「ぷにー」

 ユグドラシル(仮)に続く一本道、そこにはこれまた進行を妨げる岩を発見。
 こいつは俺の出番だぜと勇んでフラムを取り出したところに、メルヴィアが岩を持ち上げ道の途中にいた金色のグリフォンへとぶん投げて、諸共消し去ったのだ。

「ほらアカネさん、また岩ですよ」
「さすがに疲れたから、お願いするわ」
「クッ!」

 さっきのメルヴィアのパフォーマンスの後だとどうしても地味になってしまう。
 おかしいだろ、なんで岩を投げれるんだよ。
 俺の自慢の筋肉がなんか急にもやしみたいに見えてきちゃうよ。

「というか向こう側にあきらかに凶悪モンスターだろっていう感じのグリフォンがいらっしゃる。

 黒を基調としたグリフォンで、所々が返り血で染まったようにも見える赤色を帯びている。
 あれはヤバい絶対にその辺のグリフォンとは格が違う。

「俺はグリフォンに微妙にトラウマがあるというのに」

 リアルに一回殺されかけたからな、正直な話あんまり戦いたくはない。
 しかしここで見せ場を作らねば、先輩として!

「爆破!」

 岩にフラムを投げつけ、爆発すると同時に砂塵が舞い視界を覆い隠した。
 これが晴れるとき、奴との戦いの火ぶたが下りるだろう。
 初撃はフラムを投げ込み、次はメルヴィアと後輩君に前衛を任せて俺は後衛に徹するとしよう。

「よし……」

 瞬間、大きな風が吹き視界の砂粒や土埃を吹き飛ばしていった。

「ぷにに!」

 ぷにの声と同時に、視界が完全に開けた!

「行くぜ…………ぜ! ぜ! ぜ!?」

 そこにはイリュージョンの如く何もいなかった。

「あれ? 先輩、あいつどこ行ったんだ?」
「いや、俺に聞かれても」

 飛び立った様子もないし……。

「あれ? シロちゃん何食べてるの?」
「うん?

 先ほどボスグリフォンがいたあたりの所でぷにが何やらモグモグと口を動かしていた。

「はっ――!」

 その瞬間、初めてグリフォンと戦った時の光景が雷鳴の様に頭を打った。

 気づいたらぱくりと食べられていたグリフォン、こんな事が前にもあった。

「……うまいか?」
「ぷに!」
「俺の見せ場はどうした?」
「ぷにに!」

 なるほど、お前も見せ場がほしかったんだな。
 ぐるりとまわりを見ると、皆訳も分からずポカンとしていた。

「誰も見てないわけだが?」
「ぷに!」
「そうか、それでもいいのか」

 俺は怒っても良いと思う。
 ボス相手にこんなチートじみた勝ち方って常識的に考えてあり得ないだろう。

「ぷに〜」

 ぷにが急に後ろに飛んで、力をため出した。
 なんかまたデジャヴが……。

「おいやめろバカ」
「ぷにー!!」

 閃光が腹に飛び込み、思い衝撃が腹に響くと同時に、背中に世界樹がぶつかった。

「……これが見せ場か」

 俺は静かに目を伏せ、倒れ込んだ。



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