広い空、そして眼下に広がるのはその色を写している青い大海原。

「……ふう、いい天気だな」

 ふと、今日までの出来事を思い出した。
 元の世界に帰ると言う一大決心をしたものの、悪魔に取り憑かれたり、怪盗になってみたり、花火を作ってみたり。
 南の島を探索したりはしたが何も手がかりはなかったり、何一つとして進展していない。

 そろそろ何かしないといけないと思い立ち、トトリちゃんに船を借りたのだ。。
 何かあっても、とりあえずトラベルゲートさえあればなんとかなるだろうという考えの下、今俺はここにいる。

 しかし、思いつきとはいえ海に出てみて良かった。
 とても清々しい気分だ。この母なる海と一体になっている超自然的感覚が――。

「ぷに!」
「にゃ!?」

 浸っていた俺に突然のぷにアタック、しかも泣き所を狙うと言う非道っぷりだよ。
 ……悪いとは思っている。

「いや、別に迷ったわけじゃないんだって、コンパスもあるのに迷う訳ないだろ? なあ?」
「ぷに〜」

 足元でぷにが疑いの眼差しを向けている、いや俺は悪くないんだって、船が勝手に風を拾ってなあ。

「実際これはやってみないとわからないぜ実際、実際難しいし実際」
「ぷにに!」

 やだこの子、足に噛みついてきたわ。
 
「いたいいたい」

 ちょっと目頭が熱くなってきた。
 本当に俺は悪くないし、マストが受ける風とか、それ流体力学の領域ですよ、僕は高校中退なんでそんな事言われても困りますよ。

「なあ!」
「……ぷに!」

 とっととトラベルゲート使って帰れとのご要望だ。しかし……。

「俺は使わない!」
「ぷに!?」

 何故かって? そりゃ決まってるだろ。

「トトリちゃんになんて言えば良いんだよ!?」
「ぷ……ぷに……」

 ほら目を逸らす、船ごとワープしたら当然すぐ気付かれるだろう。
 そしてトトリちゃんは俺に言う訳だ。ちょっと小首をかしげながら、随分早かったですねと。

「何も言えないだろ」
「ぷに」

 船がうまく進ませられなかった。なんて言える訳がない。トトリちゃんは立派に動かせていたと言うのに。

「俺はさあ、ここで一発凄めの発見してきて、失われた先輩の威厳を少しくらい取り戻したいわけよ」
「ぷに〜」

 仕方がない先輩じゃなくて、頼れる先輩、失われた夢をもう一度くらい追っても罰は当たらないだろう。

「よってこのまま当てのない航海を続ける、とにかく北東に行けば大陸があるのは分かってるので北東に行きます」
「ぷに!」

 食料が尽きる前にピアニャちゃんがいた村を見つけよう、そして補給して、さも大冒険してきました見たいな顔で帰ろう。

「いっそフラウシュトラウトでも出てきたら話題になるのにな」
「ぷにに」
「まあな、あんだけ傷めつけたんだ。出てくる訳なかったな」
「ぷににににに!」

 俺たちは互いに笑いながら海面を裂きながら進んで行った。



 そして数日、風の吹くまま東へと進んで行った俺たちは小さな小島にたどり着いた。

 そこは完全な無人島で一面緑の一見何もなさそうなただの原生林だった。
 

「……だったんだけどなあ」
「ぷに〜」

 目の前の現実に、思わず目頭を押さえてしまった。
 俺もぷにも宝の一つくらいは期待してたよ、でもそれはさあ、コレじゃないだろ。

「分かりやす過ぎて逆に萎えるな」
「ぷに」

 俺たちの前には俺が両腕広げてようやく持ち上げられそうな大きさの真っ赤な宝箱が一つ。
 明らかな財宝か、明らかな罠かの二択だ。

「とりだしたるは5フィート程度の棒」
「ぷに?」

 フィートってどれくらいの長さかって?

「俺に聞かれても知らんよ」
「ぷに!?」

 相手がゲームっぽく構えてるから俺もゲームっぽくお相手しただけですし。
 万が一突いて爆発とかしても、大丈夫だろうと言う程度の長さだ。

「というわけでツンツクツン」

 宝の鍵の部分から、縁から全体を突いてみるが、特に何も起きない。
 ……まさか本当に財宝が?

「相当に頭の悪い海賊がここに隠してたとしたら……」
「ぷにに」
「ああ、全然中身に期待を持てない」

 その辺の海藻でも入ってるんじゃないか?
 ああ、何かそんな気がしてきた。

「……開けるか」
「ぷに」

 覚悟を決め棒切れを捨てて、宝箱(たぶんゴミ)に手をかけた。
 中が異世界につながっているとか言う神展開を期待しても良いでしょうか。

 ダメですよねと自分に言い聞かせながらおもむろに腕を上にあげた。
 鍵すらかかってない、ここまでくると流石としか言いようがない。

「……ってあら?」
「ぷに?」

 ぷにがジャンプして肩に乗って来た。見えないなら見えないと言いなさい。

「本が一冊、これは辺りと取るべきか否か……」
「ぷに〜」

 ポツンと一冊の埃を被った本、収穫と言えば収穫なのか?
 いや、中身があっただけ良いと思うか。

「とりあえずポーチに入れてっと、閉めてっと」
「ぷに!?」
「次に開ける人は俺以上の絶望を味わうことだろう……」

 本さえも入っていない宝箱、次こそこいつの最後だろう。たぶん破壊される。俺ならそうする。


 それから日が昇っている間探索を続けたが、この発見の印象が強すぎたのか、もしくは単純に気が抜けただけなのか、その島ではもうこれと言ってめぼしい物はなかった。
 あんなのがあるくらいだから、もう少し何かあると思ったが時間の無駄になってしまった。 
 なんだかあの宝箱にしてやられたようで悔しかった。
 だから島を去る際に爆破した。

「スカっとしたな!」
「ぷに!」

 その日の風はいつもよりも爽やかに感じられた。








 そしてそれから一週間、小島にさえ出会うことなく、ついに目的地に着いてしまった。
 道中も問題なく、村に着いた俺は真っ先にピアニャちゃんのおばあさんであるピルカさんの下へと向かった。

「おじゃまします、あなたの村の英雄ことアカネです」
「ぷに……」

 足元でぷにがなにやらドン引きしている。
 ピルカさんは俺に気付くと、円形のテーブルの前に座ったままこちらへ言葉を投げかけた。

「押しつけがましい英雄殿だねえ、まあ恩人は恩人、ゆっくりしていきなさい」

 俺の発言を笑いながらいなすピルカさん、何故か負けた気がする。

「お茶を出してくれればピアニャちゃんの話をしないでもありません」
「おや、それじゃあ一番良いのをだそうかね」

 ゆっくりと立ち上がり棚の方へ向かうピルカさん、この余裕、これが年の功と言う奴か。
 カップに注がれる紅茶、俺とぷにはゆっくりと味わい冷めきった体を温めた。

「それで、ピアニャは元気にしてるかい?」
「ええ、そりゃもう、こないだ街に連れ出したら一日中はしゃいでましたよ」

 俺の言葉を聞くと、ピルカさんは満足そうにうなずいていた。

「それなら良いんだ。あの子が元気にしてるならそれだけで十分さね」

 ……今度は連れて来てあげようかね。

「そうだ。あんたにも世話になったからね。ちょっと待ってな」
「? 分かりました」

 そう言うと、ピルカさんは立ち上がって奥の方の棚をごそごそと漁り始めた。
 これは村の英雄へのお礼、伝説の武器フラグ――!

「さあ、見ておくれギゼラの娘が言うにはあんたも錬金術士なんだろう?」

 テーブルに置かれたカゴにに入りたるは、錬金術に使えそうなアイテム諸々。
 ……嬉しいっちゃ嬉しいですけどね。

「まさか全部もらってもいいとか、なんてうまい話は……」
「ぷに〜」

 だよな、あっても気が咎めると言うか、小心者の心が発動するし。

「構わないよ、元々この村には必要のないものだからね」
「…………」

 その言葉に思考が停止しつつ、カゴの中のアイテムを改めてみる。
 羊毛やらグラビ石やら木の皮などなど、そこまで変わったアイテムはないのだけれど。

「なんかありえんくらいに品質が良くないか?」
「ぷにぷに」

 ピルカさんの見守る中、俺とぷにはひそひそと会話する。
 これをタダでもらった日には俺のノミのような心臓が潰れてしまう気がする。
 何か、何か対価を払おう! お金……とかは必要なさそうだし。

「タダは気が引けるんで、何か手伝いとかしますよ?」
「ぷに」
「気は使わなくても良いんだよ? あんた達には返しきれないくらいの恩があるんだから」

 真っすぐな目で見つめないでください、俺はトトリちゃんとパメラさんが心配で付いてっただけなんです。
 かと言ってそれを言っても納得してはいただけなさそうだから、ここは、そうだな。勝手にやらせてもらおう。

「仕事探してきまーす!」
「ぷにー!」

 素早く立ち上がり、ピルカさんが声を上げる間もなく素早く扉を開け、素早く立ち去る。
 見事な一連の流れをやりきった……のだが。

「律義な奴らだねえ」

 扉越しに微妙に声が聞こえてきてしまった。

「ぷに、すごい寒いんだけど顔だけめちゃくちゃ熱い」
「ぷに〜」

 ほんのり顔を赤くしているぷに、お前もか。


…………
……


 薪割りとか、木材の調達とか、いろいろ女性じゃ辛い作業を俺とぷにでこなすこと半日。
 報酬の様な扱いでピルカさんから素材をもらい、日も落ちてきたところで俺たちは船に戻ることにした。
 なんというか、女性だけの村なのでいろいろと居づらかったりするのだ。

「それじゃあお暇させていただきます」

 扉から洩れる明りがほのかに外を照らす中、俺はピルカさんに別れを告げた。

「ああ、またおいで。ピアニャの事、よろしく頼むよ」
「ういうい」
「ぷに!」

 それだけ言って、俺は手を振りながらゆっくりと階段を下って行った。
 寒さに少し歩みを急がせながら村の門をくぐり、既に雪で埋もれた足跡を辿るように船へと急いだ。







 翌朝、船を出港させ、手掛かりはなかったものの良いモノを手に入れた満足感と共に風に流されていた。
 いつもと変わらない穏やかな風だった。だったんだ。

「ぷに〜」
「ん? そうだな。船旅も飽きたしトラベルゲートで帰るか」

 甲板の上で、さあ帰ろうとトラベルゲートをポーチから出して、ワッカの形をしたそれをいつもの様に手を上に上げると。



 ――ニャー、ニャー



「ん?」
「ぷに?」

 鳥が上を横切った。首を曲げて見ると、遠くへ飛んで行っているのが見えた。
 そして俺は何故か右手を上げたまま固まっていた。

「んん?」
「ぷにに?」




 ――ニャー、ニャー



「ああん!?」
「ぷに!?」

 上空を旋回するウミネコのクチバシには青いワッカがそして二、三回くるくると回り、遠くの水平線へと飛んで行ってしまった。

「はあああああああ!!!??」
「ぷにーーーー!?」

 船の縁を掴み、海へと向かいそう叫んでいた。
 ちょっと待って、俺の船旅大丈夫理論の最大にして唯一の一つが奪われちゃいましたよ?

「リ、リターン! 村にいったん戻るぞ!」
「ぷに!」

 まだ昼下がり、いまから戻れば夜には戻れる……そう思い振り返ると。

「なんか向こうの空暗くね?」
「ぷ、ぷに」

 後ろを向けば青い空、そしてもう一度振り返ってみれば暗雲立ちこめる黒い空。
 そして風向き的にはその嵐がこっちに向かってる訳で……。

「……ははっ、うけるー!!」
「ぷにににににに!」

 俺とぷにはどちらからともなく、自然に大笑いしていた。
 当然の様に嵐が直撃して、俺はもう泣きながら笑って舵を取って、涙か雨か分からない状態で。
 ぷには狂ったように船中を跳ねまわって暗礁に警戒して。
 簡単に言うと地獄だった。

「うへ、うへへへ、ううっ、ううううっ、ぐすっ」
「ぷにゃにゃにゃにゃ!」





 命からがら嵐を抜けたときには、現在位置も分からず、性も今も尽き果てた満身創痍状態だった。

「……俺たちの冒険はこれからだー」
「ぷに……」

 空の色と同じような色を、俺とぷにの顔はしていた。



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