(アーランドの冒険者完結記念作品)

 注意!

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 ある日のアーランドの師匠のアトリエでの事。

「ぐるるのるるのるるるっと」

 ギルドの仕事を終わらせるために景気良く釜をかき混ぜる。
 なるべく後ろからの視線を気にしないようにして。

「どうしよう、どうしよう……チラッ」

 師匠の大変ですアピールがさっきから延々と続いている。
 気にしない。どうしたんだ? とか聞いたら負けだ。

「チラッ、チラッ……チラチラッ」

 師匠の露骨なチラリのリズム、略して露骨なチラリズム。

「……ううっ」
「……どうしたんだ師匠?」

 結果、負けてしまった。

「う、うん……実はね」

 師匠が申し訳なさそうに語りだした。
 曰く、仕事を受けすぎて期限がヤバい。

「お、お願いアカネ君! 手伝って!」

 うるんだ目で見つめられてお願いされる。
 そんな顔をされると怒るに怒れない。

「…………」

 だがしかし、実はこの後トトリちゃんたちと外に冒険に行く約束をしている。
 
「……致し方がなし」

 トトリちゃんとのお出かけはまた次の機会に回してもらうとしよう。

「え、それじゃあ!」
「うむ、手伝ってしんぜよう」

 無駄に胸を張って威張ってみる。

「ありがとう、アカネ君!」

 まったく、泣く子と師匠には敵わないとはよく言ったもんだぜ。
 とりあえずトトリちゃんが来たら断りの――。

「アカネさーん、いますかー?」

 丁度よくトトリちゃんが扉を開いてやって来た。
 それに対して俺は勢いよく言いきった。

「いませーん」
「あ、そうですか。それじゃあ失礼しまーす」

 出て行ってしまった。
 昔なら『いるじゃないですか!』とか言って困った顔になっていただろうに、強くなったもんだ。

「嘘嘘、いまーす!」
「はーい」

 何くわぬ顔で再び入ってくるトトリちゃん、扱いに慣れすぎているのがアカネさんちょっと寂しいです。

「トトリちゃん、悪いんだけど今日行けなくなっちゃった」
「え? どうしてですか?」

 俺は視線を横に立っている師匠へと向けた。

「師匠の仕事を急遽手伝う事に」
「う、ご、ごめんねトトリちゃん」

 申し訳なさそうに頭を軽く下げる師匠、いや、これはもう師匠と呼んでいいものか悩むレベルだ。

「そうなんですか? それなら仕方ないですよ」

 方や軽く微笑む事で受け入れるトトリちゃん、人間が出来ているとは彼女のような人の事を言うのだろう。

「それじゃあアカネさん、出かけるのはまた次の機会にお願いしますね」
「うむ」

 そしてトトリちゃんは外へと出て行った。
 ミミちゃんや後輩君もいることだし、そんなに心配はいらないだろう。
 むしろ心配のなのはこっちだ。

「よし! 仕事だ仕事! カモン!」
「うん! まずはフラム二十本!」
「ははっ、あっぱらぱーだな!」
「なんで!?」

 ごくごく自然に罵倒の言葉が出たが、俺は悪くない。





 二週間近くに渡る缶詰生活も終わりが近づき、俺は晴れ晴れとした気分で窓から空を見上げた。

「…………外で遊びたい」

 晴れ晴れとした気分と言えば少しは陽気になれるかと思ったがそんな事はなかった。
 外に行って、全力で魔物から逃げたり、川に転がり落ちたりしたい。
 誰でもいいから、僕をこの牢獄から解き放ってくれ。

「アカネさーんいますかー?」

 扉を開いてやってくるはトトリ王子、囚われのアカネ姫を恐ろしい魔女(師匠)から解き放つためにやって来た。

「いまーす。そしてお出かけしようじゃないか」

 ツカツカと詰め寄って、俺はトトリちゃんの肩をがっちり掴んでそう言った。

「え、ええ、そのつもりで来たんですけど……」
「うむ。師匠、俺出かけるけど大丈夫だよな?」
「あ、うん。お仕事ももうほとんど残ってないから平気だよ」

 材料を手に釜の前に立っていた師匠は軽くこちらを振り向いてそう言った。

「よし、そんじゃあ行くか!」
「はい!」

 弾む足取りでアトリエの外に向かう俺たちに、師匠は言葉を投げかけた。

「うん、いってらっしゃ――――ヘ、ヘクション!」

 背後から響くくしゃみの音、と同時に聞こえた爆発音。

「わ、わわわ!?」
「師匠!?」

 驚き振りかえると、そこには煤まみれになった師匠とアトリエの無残な姿が。

「…………師匠」

 憐れみを感じてしまった。
 心の中で師匠憐みの令が発せられた。

「すまんトトリちゃん、やっぱり俺残るよ」

 掃除と錬金術を同時にこなせるほど要領の良い方ではない、悲しい事に。

「そ、そうですか。それじゃあ、また今度……」

 少し俯いて気落ちしてしまっている様子のトトリちゃん。
 俺だってトトリちゃんと出かけたいけど、一方で師匠が心配なのもまた事実。

「今度、今度出かけような!」
「は、はい! それじゃあミミちゃん達待ってますから、失礼しますね」

 そう言ってペコリと頭を下げてから、外へと出ていった。
 さて、俺もこの悲惨なアトリエと師匠をなんとかしないなければ……。

「あ、アカネくーん」
「泣くな、泣くな」

 まったく、手のかかる師匠ほど可愛いってのはこの事だな。





 それから数日後、無事に仕事も全て終了した俺と師匠はお茶をしようと二人でパイを作っていた。

「ありがとうねアカネ君、本当に助かっちゃった」
「いやいや、俺は人のために役立てる! それを一番の喜びに思ってるからな!」

 びっくりするほど胡散臭い。師匠も反応に困っている。

「まあ、それは冗談として、、師匠にはなんだかんだで世話になってるからな」

 錬金術教えてもらったり、アトリエも使わせてもらってるし。あのくらいはやっておかないと罰が当たる。

「アカネさーん」
「ん? トトリちゃん」

 こないだから考えて、再三トトリちゃんがやって来た。
 今日も御誘いだろうか?

「アカネさん、もうお仕事終わりましたか?」
「ああ、ようやっとな」
「そ、それじゃあ今日は行けますよね!」

 トトリちゃんが子犬だとしたら、散歩に連れて行かれる前の如く尻尾を振っているような喜びようだ。
 そこまで喜ばれると、なんだか気恥ずかしい。

「あ、でも今日はアカネ君と一緒にお休みしようって――」
「ダメです」
「へ?」

 突如割り込んだトトリちゃんのダメ発言に、師匠は素っ頓狂な声を上げた。一方で俺も鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてると思う。
 なんか、トトリちゃんの機嫌が悪い様に思えます。

「アカネさんは今日、わたしと一緒にお出かけするんです!」
「え、ええ……でも」

 ちらりと師匠が俺の事を見る、俺に振らないでほしい。
 ところどころ気が強いこではあったけど、トトリちゃんがここまで、意地になるとは。

「ですよね!」
「あ、は、はい。その通りでございます」

 眉をちょっとつり上げた表情で詰め寄られて、俺は思わず肯定してしまった。
 ま、まあトトリちゃんと出かけられるのなら、別に悪いことではない……はず。

「で、でも今日一日だけな。明日は師匠と一緒に休みを取るってことで」
「むう、わかりました」

 よかった、わかってくれた。
 そう安堵した、次の瞬間、俺の、このアカネという男でさえも予想できない言葉が飛び出した。

「それじゃあ、その次の日はどうなんですか?」
「…………? ――ん!?」

 真剣な表情でそんな事を言うトトリちゃんの顔を二度見にして、ようやく発言の意図に気付いた。
 一日インターバルですぐに一緒に出かけようですってよ。

「その次の日はわたしと一緒にお出かけしてくれますよね!」
「ま、待った――」
「あ、それじゃあその次はわたし?」

 おいこら師匠、面白がって話に入るんじゃない。
 トトリちゃんのこの顔をよく見ろ、決してジョークの類じゃないからな!

「先生はずっとアカネさんといたじゃないですか!」
「あ、はい、ごご、ごめんなさい……」

 一瞬にして気勢をそがれた師匠、弱すぎる。

「先生の番はずっと後です!」
「え、う、うん」

 この譲歩はトトリちゃんの優しさなのかもしれない。

「…………」

 ぼうっと呆けて見てたけど、俺の関与しない所で勝手に俺の予定が決まっていきそうな流れにみえるんですけど。

「待て、待つんだトトリちゃん」
「何ですか!」

 ひいっ!?
 思わず悲鳴をあげそうになったけど、なんでそんなぷちギレ状態なんですか。

「わかった。二人交互に俺の番? を回すのはいい」

 なんかこの言葉、俺がすごい自意識過剰みたいで恥ずかしい。

「せめて俺の、俺だけの日をおいてくれ。ほかは好きにしてくれていい!」
「わ、わかりました」
「アカネ君を好きにできる日か〜」
「ん?」

 た、確かに好きにしていいって言ったけど、言葉通りに受け取られてしまった?

「それじゃあアカネさん、早速出かけましょう!」
「あ、ああ」
「いってらっしゃーい」

 トトリちゃんに手を掴まれて、引っ張られるがままにアトリエから出ていく。
 大変なことになっているのかもしれない。





 二日後、俺の日(仮)にギルドにやって来た。
 というのも、クーデリアさんに相談に来たのだ。

「そうだ、相談しよう。そう思って来たんですよ」
「はあ?」

 まずい、寒いギャグで開幕から機嫌を悪くさせてしまった。

「聞いてくださいよ、カクカクシカジカで」
「…………ッ」

 舌打ちをされた。
 よし、良い具合に場がHOTになってきたぜ。

「話すならとっとと話しなさいよ、こっちだって暇じゃないんだから」
「ええ、実はですね」

 この間の俺占有権問題についての話をかいつまんで説明した。

「これって、つまりは俺にモテ期が来たって解釈でよろしいのでしょうか?」
「いや、ただトトリの奴が意地になってるだけでしょ」

 呆れたと一目でわかる表情で肩をすくめるクーデリアさん。
 一つ言いたい事がある。

「知ってた」
「まあ、そうよね」

 互いに軽く笑いあった。
 別に最初から期待とか、そういう感情は一切ありませんでしたから!
 ええ、ありませんでしたとも!
 トトリちゃんにあんな態度取られても期待なんてしない!
 んなことあるわけねえだろ!

「くそう……」
「まあ、そのうち飽きるわよ。それまで適度にかまってあげなさい」
「それってどの程度で飽きられるんですか?」
「さあ?」

 まったく考える気がないなこの人は。
 でも、よくよく考えてみれば、あの二人に順番回しで一緒にいられることが確定してるって、これは結構なラッキーイベントだよな?









 そう思っていた。二ヶ月経つこの日まで。

「ぷに〜?」
「ああ、平気だ」

 早朝、宿屋のベッドから離れられない俺に相棒の心配そうな声が掛った。

「もう、もう嫌だ……!」

 俺の日(仮)なんてものはなかった!
 トトリちゃんと冒険に出かけ、師匠に服装的な意味で好きにされ! そしてやっと休みの日かと思えば、トトリちゃんに強制連行だ!
 トトリちゃんとの冒険で疲れてからの、師匠に玩具にされる精神ダメージが癒える間もなく、また冒険。
 このループが繰り返されてきた。

 最初は冗談交じりだった師匠も、トトリちゃんの勢いに負けじとだんだん意地になって来たし。もう疲れた。

「でも、この朝、この朝の自由な時間だけは誰にも奪われはしない」
「ぷに〜……」
「不憫に思う必要なんてないさ」

 本気で嫌なら、嫌と言わなければいけない。
 だけど、正直にそんな事を言えるほど俺は悪い奴になれない。

「はー、ぬっくいわ〜」

 布団の重さと暖かさを全身で感じていると、突然ドアがノックされた。

「アーカーネーさん! お出かけしましょ!」
「…………」

 居留守を使いたくなった。
 理解した。
 俺には、もう……逃げ場はない。


 さらに一ヶ月後、俺は日が昇る前に宿を出て、もう一人の師匠の下へと駆けこんだ。

「……はあ、お前も災難だな」
「ええ、お願いします。少しでいいんでかくまってください」

 無理矢理起こして、事情を説明した後、イクセルさんの憐みの目が突き刺さった。

「奥の席なら見えづらいからそこ使っとけ」

 お礼を言って、俺は奥の席に座り突っ伏して休息を取る事にした。
 もっと早くにこうしていればよかったのかもしれない。久しぶりの心安らぐ時間を満喫しよう……。









 俺は師匠のアトリエで釜をかき混ぜていた。
 気分も良く何にも邪魔される事のない、穏やかな空気。

「アカネ君!」

 扉の音と共にそれは崩れ去った。

「これ着てみて〜」

 振り向くとそこには笑顔の師匠がひらひらのフリルが一杯ついた服を持っていた。俺はそれに対してこわばった笑みを浮かべる。

「ダメです!」

 するとアトリエの奥の扉からトトリちゃんが出てきた。
 そして俺の腕を引っ張ると。

「アカネさんは今日わたしとお出かけするんです!」
「むう、服着るの!」

 そして師匠が反対側の腕を掴んだ。

「い、いや二人とも! 落ち付けって――痛い痛い!」

 綱引きのように右に左に引っ張られる、無理矢理振りほどく訳にもいかず、俺はただされるがままであった。
 すると、また外につながる方の扉が開いた。


「アカネさんはわたしと出かけるんです!」


「と、トトリちゃんが二人!?」

 同じ顔、同じ容姿のトトリちゃんがやって来た。
 そして一人目のトトリちゃんと同じ腕を持って引っ張り出す。

「ま、待て! ど、どういう――」
「あー! ずるい、それならわたしだって!」

 コンテナから二人目の師匠が飛び出て来た。
 そして二人対二人で引っ張り合いが起きる、流石にそうなると力も強くなり。

「や、やめろ! 二人、いや四人とも!」
「「服着るの!」」
「「お出かけです!」」
「痛い! 痛い!」

 そして、ぶちっと、何かが裂ける音がして視界が赤く――。







「ほぉ!? う、うわああああああ!!?」
「うおっ!? ど、どうした?」

 飛び跳ね立ち上がった俺の視界に広がっているのはサンライズ食堂の内装だった。
 体中は汗でびっしょりと濡れ、今もアゴから滴り落ちる汗がテーブルにしみ込んでいっている。

「…………」

 ぺたぺたと全身を触る。
 大丈夫、俺の体はちゃんと繋がっている。

「お、おいアカネ?」

 そんな俺をイクセルさんが不安そうに覗き込んできた。

「分かった」
「あ? 何がだ?」
「このままじゃあ俺、ダメになる」

 俺はふらふらと店の外へと歩みを進めていった。
 イクセルさんが制止の言葉をかけた気がするが、俺は気にせず外に出て、そしてそのまま街の外へと出ていった。
 そして俺は二人から逃げた。








 アーランドから逃げた俺は寂れた教会に住み着いた。

「ふう」

 立ち並んだ長椅子の中で、座れそうな物に座り一息つく。
 自給自足の酷い生活だが、冒険者生活で慣れているし、何よりアーランドにいるよりはずっとましだ。

「ぷに〜」
「――――っ!?」

 全身に電流が走り、脊髄反射で立ち上がった。
 後ろを振り返ると、石畳の上を相棒が跳ねながらこちらに向かってきた。

「み、見つかった!?」
「ぷにににに」

 お前がどこにいるかなんてお見通しだ。
 そう言わんばかりに笑うぷに、負けた気がする。

「お、俺を連れ戻しに来たのか……?」
「ぷにぷに」

 体を横に振って否定の意を表すぷに、さすがに俺の境遇に同情していてくれたのだろう。

「ぷに」
「ん? なんだ?」

 頭に乗せていた便箋を俺に取るように促してきたので、受け取り開く。
 中に入っていた手紙と思わしき物に目を通すと……。

「…………」

 クーデリアさんの字で書かれていた。

『ロロナがあんたがいなくなった心労で倒れました。早めに帰ってきなさい』

 巨大な釣り針だった。
 いや、釣り針にする気もない、書いてある字の所々からやる気のなさがにじみ出てきている。

「ふん、こんな姑息な手を使うなんて落ちたもんだな師匠も。こんなんで俺が帰るわけねえだろうが! はっ!」

 数日後、俺はアーランドにいた。

「ぷに……」
「べ、別に、師匠が心配だから来たわけじゃ…………」

 やめておこう、この状況で弁解しても全部ツンデレ発言になってしまう。

「ちょっと、ちょっとだけ窓から様子見だけしてな」

 アトリエの窓から中の様子を覗くが、中は誰も居らず釜が煙を上げているだけだった。

「むう、誰もいな――――」
「あ、アカネ君!」
「アカネさん!」
「にゃ!?」

 左を振り向くと、全ての元凶の二人が走って来ていた。俺に向かった。
 本能的に逃げた。

「アカネくーーーん!」
「ぬおっ!?」

 が、師匠のタックルにも近い形で腰を両腕でホールドされてしまった。

「ごめんねえ、アカネ君!」
「ごめんなさいアカネさん!」

 師匠は掴んだまま、トトリちゃんは大きく頭を下げて、揃って謝罪の言葉を口にしていた。
 よかった。俺は少し安心したぜ。

「ごめんなさいアカネさん、わたしが意地になったせいで……」
「わたしも楽しくてアカネ君の事、よく考えてあげられなくて」
「いや、うん、わかってくれればいんだ。わかってくれれば」

 脱走してよかった。こんな簡単に解決するとは。
 本当によかった。

 ……よかったけど。



「はいアカネ君、あーん」
「あ、あーん」
「アカネさんこっちもです、あーん」
「あ、あーん」

 アトリエのソファの上で、ぴったり二人に挟みこまれてケーキとパイを交互に口に運ばれる。

「アカネ君の事、この間の分まで大切にしてあげなくちゃね!」
「はい!」
「あの、二人とも……?」
「何アカネ君、飲み物?」
「あ、口元にクリームついてますよ」

 師匠がストローのささったグラスを差し出し、トトリちゃんはハンカチで口元を拭ってくれた。
 二人にぴったり挟まれて至れり尽くせり、うん、幸せ……幸せだよな?

 これって幸せなことだよなあ?


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