(アーランドの冒険者完結記念作品)

 注意!

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 年越しの準備ができているなら↓へ。






























































 今日も今日とて、俺はギルドに来ていた。
 その理由はもちろん、クーデリアさんの別バージョンを拝むためだ。

 俺はカウンターにゆっくりと近づき、深刻そうな声を出した。

「……クーデリアさん、知ってますか?」
「な、何よ急に」
「髪って、結ぶと背が縮むらしいですよ」

 瞬間、クーデリアさんはほんの一瞬だけ俺を睨むと、一転して笑顔になった。
 そして口を開いて言う事は。

「死んでいただけるかしら?」

 口に手を当てた上品な笑い方だった。
 内容は聞かなかったことにしたいです。何が悲しくて会って数秒でこんなお願いされなくちゃいけないのか。

「クーデリアさんは髪を降ろした方が良いと世論調査の結果が出てるんですよ?」
「どこの世論よ」
「主にアカネという人間の世論です」

 【世論】世間一般の考え。ある社会問題についての、多数の人間の議論による意見。
 何もおかしいところはないな。

「……はあ、用がそれだけならとっとと帰りなさい。こっちだって暇じゃないんだから」
「何故そこまで頑ななんですか」
「あんたに言われたくないわね……」
「いや、だって俺は」

 思い出す、あの晩のクーデリアさんの姿を。
 髪を降ろして割増しで幼くなったクーデリアさん、あのあどけない寝顔を張り付けた姿は、なんというかまさに……。

「あの天使の様なクーデリアさんをもう一度見たいんですよ」
「…………」

 眉をひそめて、何を言ってるんだこいつは、なんて言いたげな、そんな表情をされた。

「夢でも見た?」
「現実です」
「何というか、そう……気持ち悪いわね」

 酷い言われようだった。
 寝顔は天使だというのに、詐欺にでも遭った気分だ。

 まあ、いいさ。
 それならそれで、この俺にも考え……策という物があるのだから。

「もういいです。用件だけ伝えます」
「あら、ちゃんと用があったのね」
「実は今日師匠が一緒にご飯食べたいな、とのことでした」

 これぞ、馬の鼻先に人参、クーデリアの前にロロナ作戦。
 俺こそは平成の孔明、泣いてぷにを斬るという言葉は大変に有名だ。

「そ、そう。ロロナが」

 急にそわそわしだした。全身を使って楽しみだという想いを表現していらっしゃる。

「来れます?」
「ま、まあそうね。行かないとロロナも寂しがるだろうから、行ってあげるわ」

 声のトーンが上がったり下がったり、変に早口だったり、待ちきれないご様子です。

「それじゃあ失礼しまーす」

 爽やかスマイルで意気揚々と立ち去る俺。
 
 

 そして所変わって、アトリエにて、俺は変えるなり釜をかき混ぜていた師匠の肩に手をおいて。

「師匠、言われた通りクーデリアさんに伝えてきたぜ」
「へ? 何を?」

 顔だけこちらに向けて、目をパチクリとまたたかせる師匠。

「やだなあ、今日一緒に夕飯食べるよう誘ってくれって」
「わ、わたしそんな事言った覚えは……」
「…………ふう」

 俺は師匠の肩から手を離し、背中を向け、もう一度口を開いた。

「言ったよな?」
「い、言ってな――」
「言いましたね?」
「あ、う、うん。も、もうそれでいいや……」

 肩を落としている師匠の姿が背中越しにでもわかってしまう。
 少し悪い事をしたかもしれない。

「もう、アカネ君ったらクーちゃんの事が気になるなら、素直に誘えばいいのに」
「す、素直に……!?」

 笑いながら断られる未来しか見えない……!

「でもなあ、クーちゃんは好きな人もいるし……」
「待て待て」

 振りかえり、頬に手を当てて思い悩んでいる師匠を見下ろした。
 その悩み、一から百まで間違ってます。

「師匠、こないだも言った気がするが、そう言うのじゃないからな」
「ふふん、大丈夫だよアカネ君。わたしはちゃんとわかってるから」

 胸を張って得意げに笑う師匠。
 その師匠は何でもお見通しですって態度はやめていただきたい。

「師匠、話を少しでいいから聞いてほしいかなって」
「アカネ君……」
「師匠……」

 とても優しい目をしていた。
 でも師匠、勘違いです。

「俺はただ、あのギャップが良いかなって思っただけで」
「ぎゃっぷ?」
「そう、クーデリアさんが髪をほどいているときのギャップは凄まじかったですよ」

 髪を結っている女性が髪を解いた瞬間に95%の男性はギャップにときめく(俺調べ)

「ギャップ……ギャップ……あ、わかった! アカネ君が真面目になる、みたいな感じかな?」
「……うん」

 何も間違っていなかった。悲しい。

「と言う訳で、隙を見て髪を降ろしてやろうという計画です」

 そして確かめよう、あの晩の奇跡は本当にあったのかを。
 最近、アレは酒のせいで俺の中で過剰な補正がかかった説が有力になりつつある。

「わかったな?」
「うん、そう言う事にしておくね」

 『もう、素直じゃないんだから』と、その言葉が後ろに隠されているのが容易に想像できる笑みだった。
 俺は色々とあきらめた。
 






 夕方、俺は晩御飯を作っていた。シチューを作っていた。
 アトリエの台所で作っていた。
 結果、大変なことが起きた。

「…………師匠」

 ご飯派かパン派か聞きに戻ってみれば、机の上には置手紙が。
 その内容は、ちょっと出かけて来るね、頑張れアカネ君! な感じの内容だった。

 目頭が熱くなった。決して嬉しいからではなく、唐突に泣きなくなったからだ。

「邪魔するわよー」
「ひっ!?」

 唐突に開いた扉から入ってくるのはクーデリアさん。
 そりゃ来ますよね、呼んだんですもの。

「なんだ、あんたもいるのね」
「い、いけないでしょうか」

 ダメと言われたら、全てを投げ出して帰ろう。

「まあ別にいいけどね。ところで、ロロナはどこかしら?」

 俺が知りたいくらいです。

「ちょ、ちょっと出かけて来るって言ってましたよ」
「はあ、まったくあいつはしょうがない奴なんだから」

 少し呆れ交じりな様子で溜め息を吐くクーデリアさん。
 もっと言ってやってほしいくらいだ。

「ふう、それにしても、流石に疲れたわね」

 そう言いながらクーデリアさんはテーブルの前の椅子に座りこんだ。

「そうなんですか?」
「ええ……結果的にあいつはいない訳だけど」
「なるほどなるほど」

 思わず適当に返事を返してしまった。
 考えてみればこれは千載一遇のチャンス。
 俺が後ろにいてクーデリアさんは椅子に座っている。

 無条件で先制攻撃が可能じゃないか。

「…………」

 恐る恐る近づいて、クーデリアさんの小さな頭に手を近づけていく。
 触るか触らないかまで近づいたその瞬間。

「――――にゃ!?」

 つま先に衝撃が走った。視線を下げると、足の上に椅子の足が乗っていた。
 なるほど、クーデリアさんが椅子の後ろ脚を浮かせて俺を迎撃したという訳ですか。

「クーデリアさん」
「何かしら」
「凄く痛い」
「あらそう」

 振りかえった彼女は良い笑顔で笑っていた。
 残った優しさなのか、椅子をまた浮かしてくれたので、俺は飛び跳ねた。

「し、死ぬ! 死ぬ死ぬ!」
「死ぬわけないでしょうが」

 非常な言葉をもらいながらも、俺はソファに頭から飛び込み、クッションに顔を埋める事でなんとか痛みを忘れられそうに――。

「まったく、大げさねえ」
「にゃん!?」

 クーデリアさんが俺の左足を突いた。
 これは言わば、杭を打ち込んだ足の傷口をほじくるかのような蛮行だ。

「ひ、ひい!」

 俺は体を回転させ、仰向けになる事でなんとか攻撃をかわした。
 するとクーデリアさんは俺の頭の方の空きスペースに座りこんで俺に視線を向けると。

「本当に、あんたは一体何がしたいの?」
「俺の目的はただ一つです」

 キリッ、なんて効果音が出て来るような目線を送る。
 でもたぶん目の端に涙が溜まっている、痛みが引いてきたと思ったらまた痛くなってきた。

「はいはい」

 呆れられてしまった。

「あんたねえ、いつまでもふざけてばかりはいられないのよ?」
「ふふん、俺は永遠のティーンエイジャー……ぁー」
「…………」

 ジトっとした半目で睨まれてしまった。
 普段は見下ろしているからいい物の、見下ろされると少し威圧感がある。

「ふ、普通にずっと、このままでいればいいじゃないですか」

 お説教されているような空気に思わず目を逸らしながら小さくぼそぼそと言葉を発してしまう。

「無茶苦茶言うわね」
「だってそう言うのあんまり考えた事ありませんし」

 常にこの青春を駆け抜けろ的な思考ですし。

「あんたねえ、わたしだってずっとこのままじゃないのよ」
「またまた、クーデリアさんがこれ以上成長する訳――痛ひっ!?」

 デコピンだよ、風船の追われるような音が俺のおでこから響き渡ったよ。

「あんたねえ……」
「いやだって、俺は嫌ですよ? ギルドに行ってクーデリアさん以外の人がいるとか」

 からかいのネタを作ってギルドに行くという楽しみの一つがなくなってしまう。

「はいはい」

 全然まともに聞いていないっぽい。
 失敬な方だよ。

「むう、俺はずっとクーデリアさんと一緒の方がいいですよ」
「…………」

 俺がそう言うと、クーデリアさんは何度か瞬きをした後、呆れたように笑って。

「あんたは本当にバカね」
「……否定はしませんけど」

 だけど唐突にバカ呼ばわりはしないでほしい、ちょっと傷つく。

「俺は俺の思ったままを言っただけなんですけど」
「余計にバカじゃないの」
「――!?」

 何故に笑いながら人を罵倒するのか。
 俺の言った事はそんな変ですか?

「ですから、俺はクーデリアさんと」
「ああ、もう何度も言わなくていいからっ」
「んにゃ」

 目の上に手を乗せられた。真っ暗です。
 でも、塞がれる前の一瞬、見た顔が……。

「クーデリアさん赤くなってませんか?」
「な、なってないわよ! バカ!」
「いや、絶対になってましたって」
「なってない!」

 声を荒げて肯定しようとしないクーデリアさん。
 絶対なってたと思うんだけどな、それに……。

「なってますって、なんか手もあったかくなってますし」
「そ、それ以上言うと怒るわよ!」
「は、はい」

 もう怒ってるような気がします。でも怖いのでこれ以上口は開かないでおこう。

「ただいまー」

 お、師匠が帰って来たっぽい。

「あれ? クーちゃん、なんか顔赤いよ?」
「赤くないわよ!」
「ほら、やっぱりって痛い!」

 指で目をグリグリされた。地味に痛い。
 この人はさっきから何をそんなに慌てて……。

 俺は単純にずっと一緒がいいかなと思っただけで――って、アレ。これって言葉のとり様だと……。

「ク、クーデリアさん。別にそういう意味じゃないですからね?」
「わ、私だって別にそんな風に思ってないわよ」
「…………」
「…………」

 微妙な空気が流れてしまった。
 たぶん俺が悪い。やっぱりアカネはバカだった。

「二人ともどうしたの? ご飯にしよう?」

 笑顔で言っている様が言葉からうかがえる。
 元はと言えば師匠が変な気を回すからこんな事になったというのに。

「ふふん、シチュー、シチューの良い香り〜」

 足音が遠ざかっていく、たぶんキッチンの方に向かったのだろう。

「あの、クーデリアさん」
「何よ?」

 不機嫌さがにじみ出た返答だった。たぶん照れと怒りと諸々のせいだ。

「ちょっと聞きたいんですけど、そう言う意味だったらどうだったのかな〜って」

 聞いてしまった。
 だって気になったというか、あんな反応されて気にならない方がおかしいと思う。

「アカネ、あんた……」
「は、はい?」
「顔真っ赤よ?」
「で、でしょうね」

 血が顔に集まっていくのがよく分かります。

「はあ、あんたはやっぱりバカね」

 手が顔から離れると、クーデリアさんは既に立ち上がって背中を向けていた。

「へ、返事とかはないんですか?」
「もう一度聞く度胸があったら答えてあげなくもないわよ」

 いつもの余裕ありありの笑みを顔に張り付けて振りかえる。
 自分の気持ちが固まってたら何か言えたかもしれないけど、全然自分を理解できてない俺にはそれ以上言葉を出す事は出来なかった。

「わ、わかりました。夕飯にしましょう」
「小心者ねえ」
「ぐぬ……」

 その後は普通に三人で食事をとってお開きになってしまった。

 夜の宿屋、窓から星を見て俺を物思いに耽っていた。

「ぷに?」

 討伐から戻って来たぷにが、何事か聞いてくる。
 何か、何事か、ねえ。

「何か変わったのかな、ってな」
「ぷに〜?」

 とりあえず、自分の気持ちがわかったら、その時にまた考えるとしよう。
 それまではまたいつも通りギルドに行って、いつも通りクーデリアさんと話しをしよう。
 いつか来るその日まで。




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