「――っ!」

 一瞬の幻聴の後、ジンは半ば反射的に机に手をつき立ち上がった。
 レクスと今話さなければならない、そんな彼の無意識の忠告が体を動かしたのだろう。
 彼にしてはとても機敏な行動だった。
 机の間を縫って、ジンは肘をついて座るレクスの横へと立った。

「……何か用かよ?」

 紫色の瞳だけを動かすレクス、その雰囲気は明らかに穏やかなものとは言えない。対するジンはひるんだ様子もなく真っ直ぐ彼を見つめ口を開いた。

「話をした方がいい気がして」
「……だな、俺もこのままじゃすっきりしねえ」

 意外にも提案にあっさりと乗ると、レクスは重々しく立ち上がり先導するようにジンの横をすり抜けて扉へと向かった。
 その二人の刺々しい空気を感じ取ってか、ツキは一声かけようかと友人の輪から外れようとした。
 しかし、ちょうどレクスが扉に手を掛けようかという時、小さな影が二人の前へ現れた。

「何してんのよジン、ホームルーム始まるわよ?」
「ああ、ええと、これはその」

 このクラスの担任であるクレアが、幼げな瞳に疑問を浮かべてジンを見上げていた。
 しかし、レクスには何故か一瞥も送ってはいない。

「悪りいな、ふけさせてもらうぜ」
「という訳でして、失礼します」
「はあ?」

 コートで着膨れしても華奢なその少女の頭を押さえつけ、レクスは飄々と廊下へと。ジンもそれに続いて体を横にしてするりと抜ける。
 素っ頓狂な声を上げたクレアが廊下に顔を出すも既に二人は駆け出して階段を昇る音さえし始めていた。
 
「…………まあ、いいわ」

 顔をしかめ、若干唸りながらも一応の納得の言葉だけを吐き出した。
 言葉だけ、あくまで納得の意味を持つ言葉だけ。
 ツキもツキで、このタイミングで立ち上がって追いかけることもできないので、二人とも悪い人ではないからなんとかなるだろうと、無理矢理に自分を納得させていた。

「…………はあ」

 着席の音が響く中をコートをはためかせて進んでいく。
 彼女は黒板を横目で見て、頭が痛いといった風にため息を吐くと、虫でも追い払うように手を愉快に描かれていた祝いの言葉に向けて振った。
 すると、砂が風で吹き飛ぶように、黒板に描かれていたものは粉となって窓の外へと流されていった。
 事も無げに行ったが、世にいる魔術師と呼ばれる類の、クレアと同じ風属性の魔術師でも普通に黒板消しを使って消すだろう。その大多数にとってはそれが楽であり、クレアにとってはそっちの方が面倒なのである。

「はい、おはよう」

 黒板前は段差で高くなっており、さらにおそらく教卓後ろにも踏み台があるのだろう。
 彼女は自分の身長以上に高い視点から平坦に形式的な挨拶をした。その様子からは既に先程までのいざこざを忘れさせるほどに威圧のある、氷を思わせる冷たく圧し掛かるような風格が漂っている。
 上官に従う兵士たちのように、当然のようにおはようございますと生徒一同が声を揃えた。

「知ってる人もいるでしょうけど、私がこれから一年間あなたたちの担任を受け持ったクレア・レーゲメトンよ。風属性、あとはこのクラスの魔術基礎を担当するから顔を合わせる機会は多いでしょうね」

 あくまで事務的さを感じさせる調子で、台本を読み上げるかのごとく言葉を並べていくと、少し様子を変えて余った袖で口元を押さえ。

「さっきのあいつのこともあるから一応忠告しておくけど、サボりは許さないわよ。自由がモットーとは言え、ここは学園っていう教育機関なんだから」

 それじゃあ、さっきはなんで止めなかったのか。
 誰かがそう思った。そして、その疑問を予測していたようにクレアは答えた。

「金髪のあいつは、ジンは特別、言わばスペシャルだからよ。その内知れるだろうから教えるけど、あのユーリ・クロムウェルの教え子なのよ」

 その瞬間、大きなどよわめきが波のように広がった。
 現状、この中で唯一の友人であるツキも目を白黒させて驚愕をあらわにしていた。

「他にも事情はあるけど……まあ、そういう訳で一年生の間なら文句はないってこと。あんたたちも分からないことがあったらあいつに聞けば教えてくれるはずよ」

 もしもこの場にジンが居たら、死にそうな顔で顔を横に振り否定しそうな発言ではあるが、当人はここにいない。
 それは救いか否か、元々ここに留まっていればこの話はなかった以上語るに及ばずであろう。

 サプライズな発言で起きた騒ぎが静まり始めた頃、クレアは次の言葉を発した。

「そうね、それじゃあ次は自己紹介でもしてもらいましょうか。人を覚えるのは苦手だから、適当にこなして頂戴。卒業するまでに学年の一割でも憶えてればいい方だもの」
 
 学年の一割即ち約二十名、教師として疑問の声を投げかけずにはいられないが、入学したての若人たちには期待できないであろう。

「ああ、リーアルトはしなくてもいいわよ。もう憶えてるもの」

 一転して、という言葉がふさわしいのだろう。
 ジンとの会話を思い出させるような感情のある声、そして僅かに見える微笑み。
 やはり新入生代表かつ前人未到の七属性ともなると違うのだ、口には出さずともクラスの大多数が嫉妬の想いであれ羨望の想いであれ、そう思わずにはいられなかった。
 そして、かのクレア先生が名前を覚えるのは才がある人物だけなのだろうと、ジンの名前が覚えられていることも合わせて、一同が推測するのは容易いことであった。
 本人のあずかり知らぬところで、ジンは『新入生ジン』から『大天才ジン』へとランクアップしてしまっているようである。
 元引き篭もりには壮大すぎるレッテルであると言わざるを得ない。

「それじゃあ扉側の前から順に名前と属性と……後は適当に一言二言意気込みとか語ってもらおうかしら……ああ、それとダブりもしなくていいわよ。不本意ながら憶えてるから」

 鬱憤を溜め込んだような言葉を切欠に、自己紹介が始まった。
 魔術師になって開拓を進めたい、魔導機の開発をしたい、新魔術の研究をしたい、海の向こう側へ行きたい、何か人の役に立つことをしたい。
 意気込みや願望を皆が口々に語っていった。
 そして、一際笑顔の明るい少女の出番がやってきた。

「どうも皆さん、はじめまして。ツキ・ゼルセンです」

 友人二人のことで気をもんでいるであるはずなのに、変わらぬ笑顔で彼女は語り始めた。
 が、すぐにその笑顔に小さな陰りが生まれた。

「属性は光で、将来の夢は……その…………えっと」

 ツキは躊躇うように、瞳に迷いを浮かばせて、線の細い髪を指でいじっている。
 その様子に違和感を覚える。道中の列車、彼女は神官希望と迷いなく口にしていたはずである。
 それも昨日の話、この短い間に何かがあったのかもしれない。しかし、その理由を知るのはおそらく彼女一人なのだろう。

「……すぐに口に出しちゃうと思うので言いますと、私は神官希望なんです」

 控え目に短剣のアクセサリーを胸元から取り出す。
 それと同時に、空気が変わった。
 声こそ誰も上げなかったが、訝しげな視線がツキを貫いていた。
 ジンは何となく、ただ神官希望は珍しいという認識をしていたが、どうにもそれだけではないようである。
 訝しげな視線の中には、ちりちりと焼けるような類のものも混じっていた。

「こんな私ですけど、どうかよろしくお願いします」

 針のむしろ。
 その中でもツキは精一杯に笑顔を見せた。
 着席すると、今朝は仲睦まじそうに会話をしていた周囲の女子たちはツキから距離をとっていた。
 僅かに椅子半個分程度、しかしその椅子の端のほうに座り、自分たちは関わりはないとアピールしているかのようだった。
 誰も口にはしないが、はっきりとしたことがある。ツキがこの教室という狭いコミュニティで、望ましくない立ち位置についたのだ。
 もしこの場に確かな友人の二人がいれば、心の拠り所となったはずだが、彼女は今この瞬間は、ただ独りである。

 どこか嫌な香りを匂わせてきた自己紹介。
 しかして、残り一列まではいたって平凡に何事もなく終わった。
 漂いだしていた不穏な緊張感も、いつの間にか学生らしい初々しさから来る緊張感へと変わっていた。
 もしリーアルトに出番があれば、また何か違ったかもしれないが、教師であるクレアがしなくていいと言った以上、礼儀としてもそれに従わざるを得ないだろう。
 このまま何事もなく終わる、なんとも平和で素晴らしいことだ。
 しかし、忘れてはならない。漆黒の制服の彼らのことを。
 伝統主義的な一つの思想に集った血気盛んな若人たち、諍いを起こすなという方が無理な話ではないだろうか。

 そして立ち上がるは制服に身を包んだ栗毛の青年。
 彼はしばし見下すように周囲を見渡すと、指で眼鏡を上げ、口を開いた。

「ローメント・シュテルム」

 悪く言えば芝居がかった、良く言えば風格のある、威圧するかのように名前を告げた。
 その瞬間、思考の海に没頭していたジンはローメントに顔を向けた。
 認識したその容姿はまさしくパーティーの際、ツキとジンに相対した男であった。
 そして、次の言葉を確かに耳にすることとなった。
 自身ゆえか、慢心ゆえか、ただ堂々と、彼は言葉を紡いだのだ。

「はっきり言おう、俺は……否、我々は貴様らの何一つも認めてはいない」

 それは、明らかなる敵対の宣言であった。
 服装など態度で示しているだけならともかく、彼は言葉にして語ったのである。

「我らが高貴なる術はそれに相応しい担い手を持ってよしとする、だというのに、貴様らは虫のように集まり、増殖し、増長し、増派し、魔術というものの品位を貶めている!」

 翡翠の瞳をぎらつかせ、演説は続いた。
 貴様ら、私服の生徒たちのほとんどは圧倒されていた。
 相手方が自分たちを好ましく思ってないと察してはいたものの、口に出されるとは思っていなかったのだろう。
 そう思わせていたのは、数の錯覚。今の時代、自分らが大多数なのだから、自分たちは正しい、ゆえに彼らはは黙殺するしかない。
 そんなムードが言外にあった。
 しかし、ローメントは自分たちが正しいと確たる意思で主張した。
 敵対の気構えもできていなかった新入生の彼らは、ローメントの有無を言わせぬ威勢に怯むしかなかったのだ。
 勿論、例外もいるが。

「遂には獣畜生まで混ざる始末だ」

 その眼光は魔族の少女の背に突き刺さった。
 とんでもない暴言だが、少女は振り返ることもしなかった。
 それは怒りゆえか、怯えか、はたまたそれ以外の何かか。

「統治者としての最後の慈悲として、分不相応な力を求める愚民に忠告を与えよう。自らの意思でこの学び舎を去れ、五体満足で消えられる内にだ」

 とんでもない発言であった。
 武力の行使をいとわない、とてもではないが教師が聞いている場での言葉ではなかった。

「……ふあ」

 が、しかし、当のクレアは肩肘を突いて欠伸をしていた。
 一切合財気にも留めずに、自己紹介の延長だと言わんばかりにだ。

「以上だ、懸命な判断を期待しよう」

 語ることは語った、余裕を見せるような笑みも浮かべず、ただ当然のことを告げた。
 その言葉や所作の一つ一つがそう何よりも雄弁に語っていた。
 そして、彼が席に着くと同時に割れんばかりの雨のような拍手が響いた。
 手を打ち鳴らしているのは誰か、語るまでもない。

 私服の生徒たちは、おそらくどこか楽観視しているのか、勢いに気圧された、あくまでただそれだけであった。
 人とは誰しも、実際に身に刻まれなければ恐怖など覚えない以上、仕方がないと言えばそれまでではあるが。
 逃げずに正面に立って見据える者、もっと言えば、自分も刃を向ける者、そんな人物はいない。今は、という限定であるが。
 もし、現在は空席となっている、本来なら彼の数席前に座っていたはずの彼が居れば、反抗の言葉が生まれていたかもしれない。

 しかし、いない者がいた仮定は無意味である。
 作り上げられたローメント側が優勢であるというムードが崩れぬままに最後の一人へ。
 未だ一度も顔を見せていない少女、ローメントの暴言に顔を振り向かせもしないあたり相当に溜まっているはず……誰もがそう思った。
 空席をはさんで彼女の二つ後ろに座っていた私服の男子生徒が、蔑むように紙くずを丸めたものを彼女の後頭部へと投げつけた。
 すると。

「ふゃい!?」

 間の抜けた声を上げて跳ね上がるように、彼女は立ち上がった。
 翡翠の目が大きく見開かれ、口も大きく開かれた。

「ね、寝ておらん! 寝ておらんぞ、我は寝ておらん!」

 弁解するように体を右に後ろに向けてそう言う彼女の口元は、何か透明な液体で汚れていた。
 魔族の少女は耳をピコピコとせわしなく動かして誰も聞いていないことに必死に答えていた。
 彼女が動くたびに、彼女の衣装がバサバサと音を立てる。
 長さの均等でないソックスの上には薄紫のショートパンツ、そして赤で狼の刺繍が施された黒い腰巻を巻いていた。
 その腰巻の後ろにはスリットが入っており、髪と同じ蜂蜜色をした先細りの尻尾が飛び出ている。
 薄いブラックのノースリーブのシャツ、そして腋だけが出て二の腕からは袖で覆われていた。
 さらに白いマフラーを巻いていると、もはやコンセプトの分からないごった煮のファッションである。
 動くたびに尻尾に腰巻にマフラーに袖に、とにかく音がそこいら中から立っている。

「ね、寝て――――ふおっ、涎がっ!?」

 ゴシゴシと、何のためらいもなく袖で口元を拭く乙女が一人。
 皆は理解した。暴言にも騒ぎにも、一切無反応だった理由を。

「落ち着きなさい、自己紹介があなたの番ってことよ寝ぼすけ」
「むうっ、なるほど。しかし、なんという失態……ふむ、やり直しは利かんか」

 指先を額にあてて、妙に尊大な口調で呟く。
 次の瞬間、彼女は一歩踏み出して装飾品を振り乱して一回転すると、胸を張って声を張り上げた。

「我の名はロコ・レイマーズ! 雷を扱う魔術師である! 我の未来の展望はSホイールで世界を駆け巡ることである、種族の垣根を気にせず気楽に声をかけるが良いぞ」

 名前、属性、夢、至極全うなものであった。
 その無駄に偉そうな口調や態度を除けば、であるが。
 ただ、ローメントとは違い、バカっぽいという属性が付与されている。

「……むう、どうしたのだそなたら? そのような目をして」

 どのような目か、一文字で表現するなら『点』である。
 数分前の不穏さを吹き飛ばす程のインパクトであった。非シリアス方面での。
 ある種面白い類の人種だが、このキャラでは孤立待ったなしである。

「……ちょっと、ロコ? さん?」
「ほう質問か? よい、許すぞ。存分に尋ねるが良い」

 さすがに見ていられなかったのか、ツキは控えめに手を上げた。先程までとは別の意味で笑みが強張っている気がする。

「あの、何ゆえにそんな尊大な口調なのでしょうか?」
「決まっておる! それは、我が未来の王だからである!」
「…………?」

 ツキは笑顔のまま完全にフリーズした。
 クラスの皆も固まった。
 先生も固まった。
 空気も固まった。
 しばし教室に沈黙が訪れた。
 この時の皆の心情は『……?』で統一されていた。
 初めてクラスメイトたちの心が一つになる瞬間、素晴らしい素晴らしい。
 未来の王様はというと、沈黙を促しと捉えたのか、先を語り始めてしまった。

「どうやら皆聞きたいようであるな、よい、言わずとも知れたものよ。そう、我の真の夢、いやこれは我が運命、建国こそが我が使命なのだ」
「へえ、それはすごいですね」
 
 ツキは笑顔だった。
 が、彼女の脳内には今の一言の後にもう一文あった。
 『ところで保健室の場所はわかりますか?』という。
 ツキをしても頭の可哀想な子扱いである。

「そもそも我らが魔族は小さな集落で隠れ住んでいたのは知っておろう、しかし、我は思うのだ! 開拓が進みに進む大開拓時代、このままでは我らの村は今あるものもいずれ見つかるものも、全ていずれかの国に飲み込まれてしまう! 発展が進めばいずれ少数が住む別種族の村など解体され、散り散りとなってしまうであろう」

 ばっさばっさと服をはためかせ、ついにロコは教卓に立っていた。
 クレアは何かすごい良い笑顔を浮かべて扉の前で温かく見守っていた。

「そう! 大人共は影のように生きろと言うが、我らが魔族の未来を守るためには国が必要なのだ! フロンティアが消えぬ前に国を興し、我が王となって安寧の場所を築かなくてはならない! これぞ未来を見ることのできる若輩である我にしかできぬことよ……そのために見聞を広める力を得なくてはならんから、こうしてこの学園に居るというわけである」

 理解したか? そういった意味の視線がツキに送られた。
 ツキは、制服などの一部を除いて一同は思わず手を叩いていた。
 それはローメントの演説のように予定されていた演出ではなく、真に心を打たれたから出でた己の感情を表現するためのものであった。
 とても彼女は頭の良いとは言えないが、その言葉の想いは偽りのない本心であると皆に伝わっていた。種族の未来を憂い、種族の未来を作るために、確かに今を歩んでいる一人の少女へと惜しみのない拍手が送られていた。

「うむうむ、理解感謝するぞ。やはりそなたらは頭の固い老骨どもとは違うようだ」

 満足そうな笑みを浮かべ、ロコは恭しく一礼をした。
 そして席に戻るかと思われたが、彼、ローメントの横槍が入った。

「ふん、魔族が王とは。笑わせるな」
「何?」

 ロコの目が細まり、途端に険しい顔になった。
 それを嘲笑うようにローメントは口を歪ませる。

「笑わせるなと言ったのだ。言葉も理解できないか? 獣」
「貴様っ!」

 一度目は聞いてすらいなかったがゆえに見過ごされていた、しかし二度目は聞いてしまった。
 一触触発の空気のまま言葉は続いた。

「今一度言おう、魔術とは高貴なる技、貴様ら下賎の民が使うなどと許させんことだ」
「……?」

 高圧的な言葉に反発するでもなく、気圧されるでもなく、ロコは、小さく首をかしげた。
 何を言っているんだこいつは、そう言わんばかりに。

「……!」

 そして、なるほどなるほどと頷くと。

「はっはっは!」

 大声で笑い出したのである。

「何がおかしい?」
「これが笑わずにいられるものか。ここは貴様の言う下賎な民も学ぶ場、その中において高貴なる技などと、肥溜めの中の小石を宝石と謳う道化のようではないか」

 心底愉快そうに笑みを浮かべるロコ、その目はいやらしく反論を求めるように光っていた。

「その小石は貴様ら汚物が汚しているだけであって、真実、宝石だ。浄化すれば元の輝きを取り戻すであろうよ」
「ほほう、愚かにもそう信じるというのなら我は言を収めてやろうではないか。だが、次に我と語りたければ、歴史のお勉強を済ませることだな。その態度と理論、人にやるならともかく我には毛ほども刺さりはせん」

 余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべ、胸を張って少女は席へと戻った。
 何かを確信してその態度を保っているロコに、ローメントもそれ以上何も言うことはできなかった。

「はいはい、それなりに面白かったわよ。ホームルームもいったん終わり、それじゃあ一時間目は私だから、大人しく待ってなさいよ」

 そうして出て行くクレア先生。
 いつの間にか教室の空気は重苦しい威圧感の支配するものではなくなっており、ロコの大言のおかげか学生らしい自由な開放感で満ちていた。
 ツキは己の周囲はともかく、全体のその雰囲気にどこか安堵し、未だ戻らぬ二人に想いを馳せた。
 

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